おもしろ「城の本」
「歴史作家の城めぐり」伊東潤著
歴史マニアにとっては、たまらない魅力を秘めている日本各地の城。知れば知るほど、建築物としての魅力はもちろんのこと、地形をうまく利用した配置や、当時の軍事的・歴史的背景など、さまざまなものが見えてくる。今回は、城の図解、関東甲信の城めぐりガイド、戦国の城、山城トレッキングコースガイドの4冊をご紹介!
外資系企業に長年勤務し、コンサルタントとして独立した著者は、箱根の山中城を訪れた際に、障子堀と呼ばれる遺構を見て衝撃を受け、以降、中世古城のマニアと化して各地を巡り、歴史作家となった。本書は、主に600を超える城めぐりをした著者によるえりすぐりの35の名城を紹介したもの。武将たちの戦略の跡を、その歴史を遡りながらひもといていく。
関ケ原の戦いを精神的に支えた城として、著者は小田原城を挙げる。情勢の変化を受けて北条氏が大外郭の普請を開始したことにより、総延長9キロにも及ぶ総構えが完成。難攻不落という神話が生まれることから、近隣諸城の兵も小田原城に頼る戦略へと陥ってしまったというのだ。本書を参考に城めぐりをすれば武将の心のうちが垣間見えてくること必至。
(プレジデント社 1400円+税)
「攻める山城50城」清野明著
山歩きが好きな著者は、あるとき山のなかに自然とは異なる地形が見られることに気づき、それが山城の跡だということにハッとした。戦国時代から整備もされず、そのままの姿でほったらかしになっている山城が、実はごく身近な場所にあるのだ。本書は、東京から日帰りで行ける関東近郊の山城を紹介した歴史トレッキング本。戦国時代から手付かずに残っている山城の各所の見どころを紹介しつつ、実際に歩いて行ける山城へのルートを紹介している。
復元山城とは一味違う素のままの山城の姿を見られるのが八王子市にある浄福寺城。本丸手前はかなりの急坂になっており、北東側に伸びる尾根道にはいくつかの堀切りが存在する。深さ10メートルもあろうかという当時のままの堀切りのワイルドな姿を体感してほしい。
(山と溪谷社 1500円+税)
「オールカラー徹底図解 日本の城」香川元太郎著&イラスト
世界でも独自のスタイルを誇る、日本の城。時には仲間の命を守るため、時にはその権力を誇示するために造られた日本の城は、どんな考えに基づいてその姿になったのか。本書は、歴史考証イラストが専門で城の復元イラストの第一人者である著者が、発掘調査の平面図や研究者が作成した縄張り図などをもとに描いた城の図解本。先人の知恵と工夫がつまった城の姿を立体的に、かつ堀や石垣や城下町に至るまでを総合的に描いている。
面白いのは、構造物としての城の姿だけでなく、時代とともに戦の形が変わるなか、進化を遂げた城の様子がわかりやすく描かれている点だ。
たとえば、戦国時代には敵を誘い込んで討ち取るキルゾーンともいうべき「升形虎口」と呼ばれる虎口構造が発達した。これは、城の出入り口である虎口に四角い升形の空間を作ることで三方から銃撃することを可能にしたもので、少数の兵力で敵に大きなダメージを与えられる利点があった。
他にも籠城時に水を確保するために名古屋城の天守地下には井戸が設けられていたこと、戦いの最中に城から抜け出せる道が熊本城などに見られることにも言及。ぼんやり見ているだけでは気づけない城の秘密が見えてくる。
(学研 1700円+税)
「地形と立地から読み解く『戦国の城』」萩原さちこ著
緊迫した情勢下で軍事施設として築かれた戦国時代の城は、城に課せられた役割や意義が最大限に発揮できるよう、必ず地の利を生かした築城がされている。本書は、地形や立地の観点から城を検証し、なぜその場所が選ばれたのか、そこでいかに戦ったのかを読み解くもの。城が築かれる場所の特徴のほか、戦国の城を知るためのキーワードとして「地形」「地質」「街道」「国境」「支城網」「付け城・陣城」「変遷」「改造」の8つ観点を挙げて、戦国の城の戦いぶりを読み解いている。
たとえば、九州の志布志城は、南部に分布するシラス台地と浸食谷を利用して築かれた城。ほぼ垂直に削り込まれた切り岸が、敵にとっては登ることが不可能な鉄壁の城を造り上げた。立地を最大の武器とした戦国武将の戦略が見えてくる。
(マイナビ出版 1290円+税)