「ようこそ、バー・ピノッキオへ」はらだみずき著
バーでの楽しみにカクテルがある。一口にカクテルといっても、その種類は3000ともいわれるほど、実にさまざま。名前にもそれぞれ由来がある。テキーラベースのマルガリータには、このカクテルを創作したバーテンダーの若かりし頃に事故で亡くなった恋人の名前という由来が伝えられている。
本書に登場するマルガリータにまつわる物語もまた悲しみを帯びている。
【あらすじ】カウンターにわずか8席という小さな「バー・ピノッキオ」を営むのは白髪の無口なマスター。その昔、10年ほど修業した後、ようやくチーフバーテンダーとして店を任されるようになったある日、後輩の靖男が結婚の報告に現れた。式の出席を約束したもののしばらく音沙汰がなく、暮れも押し迫った頃、靖男が店に来てマスター指名でマルガリータを作ってくれと頼んできた。
手がいっぱいで他の者に任せたのだが、靖男は飲むとすぐに店を出て行った。間もなく靖男が自殺したと聞き、彼がマルガリータを頼んだ意味を知り、ひどく悔やむ。その死を忘れかけた頃、今度は娘を失うという悲劇がマスターを襲う。