「高田馬場アンダーグラウンド」本橋信宏著
高田馬場について書かれている。
高田馬場は少し怪しい街である。
池袋と新宿・歌舞伎町の間にあるため、そのバックヤードのような役割を担っているのだ。私も住んでいるから知っている。そのアンダーグラウンドに生きる人たちを描いている。
あらゆる関係者に直接に話を聞く調査力がすごい。それも上っつらな取材ではなく、しっかり本音まで聞き出している。
「ビニ本」を始めて大儲けした男、「自販機本」をつくった男、歌舞伎町で「ぼったくりの帝王」と呼ばれた男。生々しい声が記されている。それだけではなく「赤軍派の元最高指導者」の話まで聞き出している。すべて高田馬場でつながっているのだ。
裏側の人間だけではなく高田馬場ゆかりの江戸川乱歩や手塚治虫、また名曲「神田川」の作詞家・喜多條忠たちの素顔にも迫る。この「表」の人たちの話も極めて面白い。風俗マンガ家として知られる成田アキラと手塚治虫との交流話は、最後の最後、ええ話やあ、と胸に迫る。
喜多條忠が「神田川」を作詞し、それに南こうせつが曲をつけたエピソードにも圧倒される。
筆者は、喜多條忠本人に名曲「神田川」の舞台となった「三畳一間の下宿」があった場所に案内されている。「ああ……なんということか。私の仕事場とそれこそ目と鼻の先ではないか」と書かれた横にある写真を見て、これまた私(堀井)が驚いた。私の仕事場とも目と鼻の先である。筆者はその場所の橋の欄干に赤いテープを巻き付けたらしい。そして、ウソのような話であるが、私はそのテープを見かけていたのだ。あれはそういう目印だったのかと思った瞬間に、だったら歌に出てくる銭湯は、あの昭和の終わりになくなった和菓子屋とはんこ屋の先のあそこだ、と思い至り、私はしばし呆然としてしまった。当書を読んでる間中、私は昭和の中に居続けていた。
(駒草出版 1500円+税)