「平将門と天慶の乱」乃至政彦著
日本中世史ブームといわれる中での、平将門の新書である。ただ将門は、中世の人ではない。平安時代でも前半の人だ。将門が死んで、30年してから紫式部が生まれている。
平将門の生涯が描かれる。原資料にあたり、先行研究を漏らさずチェックしてある。研究書としては当然だが、当書には研究書ぽい堅苦しさがない。文献を踏まえた上で生き生きとした将門を描こうとしたのだろう、勇躍たる青年が現前してくる。
なぜ将門が関東の地において反乱を起こすに至ったのか、その風景がビビッドに描かれる。それは仕方ないな、いやそこで頑張れ、あ、気をつけろ、と小説のように読み進んでしまった。著者が調べに調べた上で、将門にとても近づいたからだろう。
将門は生まれ年もわからない。位階に叙されていないことから、当書では、関東での同族の争いに巻き込まれたのが二十歳のころと推定、争いに飛び込む若者の姿を描く。二十歳と聞いた瞬間に、匂い立つような青年が躍動する関東の地が見えた気がした。
前半生の将門は、好感の持てる青年である。関東を制圧していく将門は、土地の者に強く愛されていたのだ。
それから10年、武力によって関東を制圧し、中央政府の支配から脱しようとする。そのあたりから少し謎がかる。でも当書は将門を突き放さず、そこにいる人物として添い続ける。
2カ月だけだが日本国内に別の国を打ち立てたところに、漢の劉邦のような侠気とロマンが強く漂う。彼の行動がその後の日本のいろんなコトを決めてしまったのだ。
ちなみに将門の本拠は茨城・千葉県であり、東京や神田とは関係がない。しかし神田明神の祭神とされているのはなぜか、その謎も最後に解かれる。将門と同じ音になる「唱門」師たちの墓の跡ではないかという推察にまた、慄えるように得心した。
これを読めば、リアルな将門に会えるのだ。二度読みしたくなる新書も珍しい。(講談社 920円+税)