「国運の分岐点」デービッド・アトキンソン氏

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 中小企業経営者が血相を変えそうな提言のオンパレードだ。本書は、長期停滞が続く日本経済の現状を緻密なデータ分析で解き明かし、日本再生に向けた突破口を示していく。

「世界一のスピードで少子高齢化が進む日本は増大する社会保障費、膨張する国の借金という大きな問題を抱えています。社会保障費の1人当たりの負担額は2020年は1時間あたり824円。それが40年に1642円、60年には2150円に膨らみます。最低賃金は全国平均874円で、現在の賃金水準ではまかないきれないほど社会保障負担は増えていく。最低賃金を毎年5%ペースで引き上げなければ間に合いません。社会保障制度の破綻を避けるには、生産性を上げる以外に打つ手はないのです」

 著者は観光立国論を提唱し、インバウンド急増のきっかけをつくった立役者。その著者が、社会保障制度の破綻を避けるには、中小企業改革が必要だと断言する。

 現在、日本企業の99・7%が中小企業で、その数は約360万社。1963年施行の中小企業基本法が対象を小規模企業に絞った上、税制優遇や補助金支給などのインセンティブを与えたことから急増した。

「サラリーマンの83%が中小企業に勤めていますが、日本の生産性が上がらない主因は、従業員を低賃金で雇う中小企業です。

 世界的に見て中小企業勤めの労働人口の割合が高いほど、その国の生産性は低い。日本も例外ではありません。〈規模の経済〉という用語が示す通り、〈生産性向上=企業規模の拡大〉は鉄則なのです。日本の生産性が伸び悩む最大の理由は、経済合理性に欠ける小規模企業が多すぎる点に尽きる。最低賃金引き上げで経営者に経済合理性を追求するプレッシャーをかけ、同時に合併促進政策を打って企業集約を進めれば、生産性は自動的に上向きます」

 国の政策はその逆を行く。後継ぎ難に直面する約180万社の中小企業をサポートするため、経産省は第三者による事業継承を後押しするマッチングに力を入れている。

「経産省は人口増加時代の政策にしがみつくのはやめて、合併促進に方向転換するべき。産業構造の効率性を高めるには中小企業を何社まで集約すべきか考える時期で、私は160万~200万社程度まで半減させるのがベストだと思っています。日本は自然災害が非常に多く、首都直下地震や南海トラフ地震がいつ発生してもおかしくないといわれています。土木学会の試算によると、経済損失は首都直下で778兆円、南海トラフで1410兆円。名目GDP550兆円の4倍ものお金が吹き飛んでしまう計算です。しかも、債務残高は1200兆円を超え、GDP比220%という世界最悪の状況で、巨額の復興資金を果たして調達できるのか。世界トップの経済大国である米国は自国第一主義に走り、2位の中国を頼らざるを得ない事態が現実味を帯びてきます」

 中国のアフリカでの行動を見る限り、無条件で支援するとは思えない。中国の経済支配下に入り、属国のように位置付けられる最悪シナリオすら想定されるという。

「中小企業改革は不可欠ですが、それを感情的に否定すれば、その結果として想定される事態を本書で示しています。まさに国運の分岐点に立っている今、日本経済を維持・成長させる道を選ぶのか否かをこの本で問いたいんです」

(講談社 900円+税)

◇1965年、英国生まれ。オックスフォード大日本学科卒。元ゴールドマン・サックス金融調査室長。日本の不良債権の実態を暴くリポートで注目を集める。2009年、国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、取締役に就任。10年に代表取締役会長、11年に同会長兼社長、14年に社長。「新・観光立国論」で山本七平賞などを受賞。

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