「バーボン・ストリート・ブルース」高田渡著
日本のフォークソング界で独自の位置を築き、多くの人に愛された高田渡が亡くなってもう15年近く経つ。晩年の高田はいつも酔っぱらっているイメージで、泥酔した高田を介抱してくれる人に「どなたか、存じませんが、ありがとうございます」と言うと、一緒に飲みに行った息子(ミュージシャンの高田漣)だったといったエピソードがいくつも残されている。本書はその自伝的エッセー。
【あらすじ】「酒仙」という言葉がよく似合う高田だが、酒を飲み始めたのは意外に遅く22歳あたりからで、それまではもっぱらコーヒー党だった。そういえば、京都・三条堺町のイノダコーヒー店の名を全国的に知らしめた「コーヒーブルース」という歌があった。といっても小学生の頃には、学校が終わると毎日のように父の行きつけの酒場へ行き、酒を飲み終えるのを待っていたというから、酒の因子は確実に埋め込まれていたのだろう。
40歳を過ぎてからは過度の飲酒による慢性肝炎で入退院を繰り返していたから、仲間内で「高田渡が今にも死にそうだ」というウワサが頻繁に飛び交うようになる。さすがの本人も反省したのか、アルバム制作のために1年間の禁酒を断行。
ところが、いざレコーディングに入ると、1曲ごとに、歌う前にビールのロング缶を1本、歌いながら1本、歌い終わってもう1本という具合。「酒がまったくのめなくなったときにパタンと死ねたら最高だと思う」という言葉通り、本書の親本が刊行された4年後、ツアー中の北海道で客死。
【読みどころ】本書には、デビュー曲「自衛隊に入ろう」をめぐる話や60年代後半~70年代初期のフォーク界のエピソードもふんだんに盛り込まれ、貴重な文化史ともなっている。 <石>
(筑摩書房 720円+税)