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「時間は存在しない」カルロ・ロヴェッリ著 冨永星訳

 未曽有の事態が頻発し、時代の混迷が明らかな現在。書店では「時間」の謎を問う新刊が目立っている。



 イタリアの量子物理学者が書いた世界的ベストセラーとして評判の本。物理学の話以外にも美術や文学、世界の神話など豊富なエピソードが次々に出てくる。人類史で最初に「時間とはなにか」を考察したのはアリストテレス。彼は時間を、事物の連続的な変化を測定したものだと考えた。それに対してニュートンは、時間は事物そのものやその変化などとは関係のない、それ自体で存在する絶対的なものだと考えた。

 この対立する見解を統合したのがアインシュタイン。著者はこれを「3人の巨人がダンスをしているようだ」と言う。こういうウイットに富んだ言い回しが本書の魅力のひとつだろう。

 著者の専門である量子力学の考え方でいくと、時間は「量子化」つまり粒状に存在する。時計で時間を測るのは0・000……と小数点以下をいくら無限にしても、結局は粒状の時間のあいだをぴょんぴょん跳んでいることなのだ。

 この考えを受け入れると、時間は「揺らぎ」や「重ね合わせ」が起こり得るものになる。まるでSFのようだが、時間が普遍的でなく人によって変わる(高齢者と若者では確かに時間の流れは違う)ことまで、科学のことばで説明できるという予感を抱かせるのが本書の魅力だろう。

(NHK出版 2000円+税)

「時間認識という錯覚」首藤至道著

 ギリシャの哲人ゼノン。彼はあるとき、こう言った。

「飛ぶ矢の一瞬は止まっている。矢は速度ゼロ。時間が瞬間の積み重ねであるならゼロはゼロのまま。つまり飛ぶ矢は止まっている」

 常識で考えれば明らかに間違い。だが、論理的にいくとどこが誤りなのか誰も指摘できない。本書はこの謎の解明に挑んだ謎の思索家の著書。

 デカルトやフッサールの時間論を引き、カラー図版の錯視画像を用いて「止まっているはずのものが動いて見える」という現象を解明する。

 難解なことばがなく、エッセーのように読みやすい。著者紹介には「1965年生まれ。大分県出身。分野の枠を超えた様々な提言を行っている」とあるが、ネットを調べると「熊男の住処」というページがあり、日記形式で思索的なブログがアップされている。ユニークな知的読み物。

(幻冬舎 1300円+税)

「時間はどこから来て、なぜ流れるのか?」吉田伸夫著

 時間とは何か。時の流れは物理現象なのか。素粒子論を専門とする著者はこの問いから出発する。

 古典力学を築いた巨人ニュートンは物体の存在(物理量)について明確に定義したが、時間については「外界のなにものとも関係なく、均一に流れる」とだけ述べて、曖昧にした。他方、アインシュタインは時間が一様に流れるといった議論を排し、物理現象を通じて時間を解明しようとした。重力が時間の尺度を変える可能性があることを示した。

 物理学の立場から時間という現象を深く解明した一般向けの啓蒙書。

(講談社 1000円+税)

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