七尾与史氏「ドS刑事」連載直前インタビュー
個性的なキャラクターが活躍する小説を数多く世に送り出してきた七尾与史氏によるブラックコメディー小説「ドS刑事 二度あることは三度ある殺人事件」が、GW明けの来週5月7日からスタートする。「ドS刑事」は七尾氏の人気シリーズで今作で7作目。連載に当たっての意気込みを聞いた。
物語は、コンビニで働く<ソウタ>の章から幕を開ける。ソウタは店に来る若い女性客の華子に恋心を抱いており、ある時、華子に暴力を振るう恋人の飯塚を殺してしまう。ところがその半年後、今度は華子が女に殺されるところを目撃する。ソウタが警察に通報しようとしたその瞬間、「俺はゾディアック」という声がした――。
「『ドS刑事』シリーズは今作が7作目で、タイトルにあるようにドS気質の刑事・黒井マヤを中心に事件の謎に迫る社会派ブラックコメディーです。そして今回の作品でモチーフとなるのがソウタの章で出てきた『ゾディアック』。ゾディアックというのは1960年代後半、アメリカで起こった連続殺人事件で、今も捜査中の未解決事件なんですね。このゾディアック事件をなぞらえた劇場型犯罪事件を追う、というのがストーリーです。60代の人ならゾディアック事件はリアルに覚えているのではないでしょうか」
ゾディアックをモチーフに選んだ理由は――。
「“ゾディアック事件の犯人の息子”を名乗る人物の手記を読んだのがきっかけですね。亡父がゾディアックではないかという内容で、日本に来たことがあるという一文に目が留まりました。そこから、日本でゾディアック事件が起こったとしたら、と考えたんです。ゾディアックは自己顕示欲が強いのか、やたらヒントを残したのが特徴で、暗号文をマスコミに送りつけて『解けば俺の正体がわかる』と挑発したり、ヘンなシンボルマークを残したりしているんですね。それで、もし、SNSが発達した現在にゾディアック事件が起こったらどんなヒントを残すか、何が起こるかを描いてみようと思ったわけです」
物語では、主人公の黒井マヤを筆頭に、個性的な人物が何人も登場する。
「アラサーのマヤは美人で頭脳明晰な巡査部長。しかも警視庁次長の娘という、一見、非の打ちどころのない女性です。ところが彼女には猟奇的趣味があり、刑事になった理由が殺人現場が見たいから、なんですね。芸術的に洗練された現場が好みで、現場に点数をつけるのが恒例です。そのマヤと一緒に捜査をするのが、巡査の代官山脩介、それから階級上は2人の上司になる警部補の浜田学。代官山はマヤのお気に入りで、浜田はドSなマヤにいじめられるドM気質。事件は猟奇的ですが、3人の見た目や学歴とのギャップや、そのちぐはぐさがもたらす会話などは僕自身も楽しんで描きました」
物語はやがて連続殺人事件へと移っていく。凄惨な殺人現場、犯人からSNSを通してメッセージが届き、マヤの浮かれぶり、現場のドタバタぶりがコミカルに描かれる。
「マヤは常人離れした洞察力で真相を看破しても、絶対に漏らしません。解決すると次の殺人事件が見られないからです。それをうまく聞き出すのが代官山の役目なんですね。物語は代官山の目線で描いていますので、マヤが何を掴んだのか、何にこだわっているのか、事件はもちろん、マヤの洞察も推察してみてください。ゾディアックが残すヒントが伏線になっています」
ゾディアックの正体に関してはかなり思い切ったオチが用意されているが、科学的な根拠はあるという。
「今は引退していますが、僕は歯医者だったので、一応、医学的な知識をベースにして想像を膨らませたんですよ。ソウタの事件から幕を開ける連続殺人事件の真相をどうぞお楽しみに」