ライオンとトラの咆哮が戦闘機の爆音に
「ようこそ映画音響の世界へ」
腕のいい職人の話は気持ちがいい。簡潔で無駄なく、自然な深みがあって面白い。
――とほめちぎりたくなるのが今月28日に都内封切りのドキュメンタリー映画「ようこそ映画音響の世界へ」だ。
映画の音響は音楽だけじゃない。効果音に擬音。戦場を駆ける馬の疾走音、カーチェイスのタイヤのきしみ。落ち葉を踏みしだき、豪雨が地面をたたく。そんな音のどれもが、単なる現場録音ではそれらしく聞こえない。
本作は成功した近年の具体例を豊富に引用する。「スター・ウォーズ」「ジョーズ」「シャイニング」「鳥」「地獄の黙示録」「ブロークバック・マウンテン」「ラ・ラ・ランド」……。
それらの音響を手がけたウォルター・マーチ、ベン・バート、ゲイリー・ライドストロームら伝説の音響マンが次々登場するのがうれしい。
「トップガン」の戦闘機の爆音が、実物のエンジン音に動物園で録ったライオンやトラの咆哮を重ねたという話は目からウロコだろう。
サウンドミキサーとは音楽から擬音まですべての音をまとめる「オーケストラの指揮者のようなもの」だという。監督のミッジ・コスティン自身、腕のいい音響デザイナーだった。いまは母校・南カリフォルニア大映画学科の教授だが、初めは監督志望で、音響など興味もないまま仕方なく始めた仕事だったとか。
しかし、だからこそ逆に、音響の面白さや奥深さを自分なら伝えられる、と思ったのだろう。腕に覚えのある職人ならありそうな話ではないか。
ウォルター・マーチ著「映画の瞬き」(フィルムアート社 1700円+税)は、本作でも先覚者と名指しされる映画編集と音響デザインの大家による技術解説。映画の編集がアナログからデジタルに切り替わるさなかに書かれただけに、映像表現を支える技術基盤とその変化がよくわかる好著だ。 <生井英考>