国連第2代事務総長の死の真相を追う
「誰がハマーショルドを殺したか」
新型コロナ禍で評判を下げた世界保健機関(WHO)。おかげで上部組織の国連までが機能不全の権化に見えた。
だが、翻って国連が理想主義の光を放った時代は果たしていつまでだろう。
そんなことを思い出させるのが今週末封切りのドキュメンタリー映画「誰がハマーショルドを殺したか」である。
スウェーデン出身のダグ・ハマーショルドは国連第2代事務総長。大国の思惑に翻弄される国際機関の長として強力な事務局を設置。植民地独立に苦闘する第三世界支援に奔走した理想主義者として懐かしい名前だろう。
特にてこずったのがベルギーからの独立を果たしたコンゴの内戦。停戦調停のため足しげく現地に通ったが、1961年、4度目の現地入りに際してチャーター機が墜落、乗員もろとも死亡。操縦士のミスによる事故と発表された。
ところが37年後の98年、南アのアパルトヘイト犯罪の調査終了の時点で謎の文書が出現する。そこからハマーショルドの死を謀殺とする陰謀説が急浮上したのである。
映画はこの真相を追うが、作中で狂言回し風に登場するデンマーク人監督マッツ・ブリュガーが、ヤマ師めいた風采と物腰で変なおかしみを発揮する。歴史の暗部を暴く力作ノンフィクションなのだが、微妙に漂うフェイクな空気が60年も昔の話を現代に通じる事件に変えているのだ。
当時、ハマーショルドの死は世界に衝撃を与えたが、米国民を前にテレビで哀悼した大統領ジョン・F・ケネディも2年余り後に暗殺。
そしてこれを機に、世界は一気に暴力と混乱の世相に転落していく。そんな往時までが脳裏によみがえるのだ。
驚いたことにハマーショルドが残した唯一の著書「道しるべ」(みすず書房 2800円+税)は新装版で今も入手可能。公人とは異なる思索家としての素顔の見える好著である。 <生井英考>