「真夜中のカーボーイ」山田五郎著

公開日: 更新日:

 出版社勤めの定年を間近に控えたある日、高校時代の恋人から39年ぶりに電話がかかってきた。東京に来ているので、会って話をしたいというのだ。

 俺は気が付いた。ちょうど39年前の今日、俺は最低な失敗をやらかして、彼女に二度と会えなくなったのだ――。

 しかし、会ってみるとアパレル会社経営の富豪となった、かつての恋人“デコ”はあっけらかんとしており、17歳のとき未遂に終わった大阪から白浜へのバイク旅行をやらないか、と誘ってきたのだ。肝臓がんで余命わずかな今、きっちり落とし前をつけときたい、という。

 かくして俺たちは赤いメルセデスに乗り込み、2泊3日の白浜旅行へ出発。デートで行ったホドラー展、初めて夜を共にしたときに流れていたデヴィッド・ボウイの曲。記憶が次々と蘇り、止まった時計の針が動き出したようだった。しかし白浜観光を終えた夜、デコは姿を消す。

 テレビや雑誌などで幅広く活躍する著者の初小説。2人の青春時代と重なる80年代の音楽や映画が随所に登場し、テンポよい大阪弁と共に話は展開していく。生涯で最も活力にあふれていた時期を一緒に過ごした男女の、消えゆく命に対する心情が真に迫ってくる。

(幻冬舎 1300円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  4. 4

    永野芽郁は大河とラジオは先手を打つように辞退したが…今のところ「謹慎」の発表がない理由

  5. 5

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  1. 6

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  2. 7

    威圧的指導に選手反発、脱走者まで…新体操強化本部長パワハラ指導の根源はロシア依存

  3. 8

    ガーシー氏“暴露”…元アイドルらが王族らに買われる闇オーディション「サウジ案件」を業界人語る

  4. 9

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  5. 10

    内野聖陽が見せる父親の背中…15年ぶり主演ドラマ「PJ」は《パワハラ》《愛情》《ホームドラマ》の「ちゃんぽん」だ