「臨床探偵と消えた脳病変」浅ノ宮遼著

公開日: 更新日:

「症状」はあるのに何の病気かわからない。そのような病気を「未診断疾患」という。最近ではこうした未診断疾患に対して遺伝情報からアプローチする研究も行われているようだが、疾患の原因が究明できないというのは、患者はもちろん、医師をも大いに頭を悩ませる。本書の主人公は、他の医師たちが見抜けなかった原因を次々と解き明かす診断の天才で、「臨床探偵」の異名を持つ医師だ。

【あらすじ】脳外科臨床講義の初日、教授は学生たちに問いかけた。ある女性が昏睡に陥ったが、どういう原因が考えられるか、と。いくつかの答えが出された後、教授はその女性が海馬硬化症という病気にかかっていたことを明かす。

 さらに昏睡状態から復したときにこの脳病変が消失していた、なぜそうなったのかを最初に正解した者に試験で50点を与えると告げる。学生たちは張り切って推理していくがいずれも正解にほど遠い。正解者なしと思われたときに西丸豊という学生が現れ、奇想天外な真相を見事暴く。

 西丸の学生時代を描いたこの表題作の他、「血の行方」では、重度の貧血で入院した患者だが、あらゆる検査と投薬を施しても貧血は改善しない。原因不明のまま自ら血を抜いているのではないかとの疑いが出てきたが、西丸は予想外の指摘をする。「開眼」は、呼吸困難の異常を訴えても信じてもらえず、詐病まで疑われた患者に対して、西丸は皆が無視していたある症状に注目する……。

【読みどころ】全5作、いずれもさまざまな可能性を読者に提示しつつ、西丸の鋭い観察眼が思いも付かない病変を探り当てていくという仕立てで、極めて上質なミステリーになっている。作品はまだこの短編集のみだが、現在執筆中という長編が楽しみだ。 <石>

(東京創元社 748円)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」