「薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理」塔山郁著
薬剤師は、医療ドラマでも裏方的な存在だが、昨秋の石原さとみ主演のテレビドラマ「アンサング・シンデレラ」は薬剤師を主役としたドラマとして注目を集めた。薬剤師には調剤や服薬指導などのほかに、医師の処方箋に疑問がある場合に、医師に問い合わせを行う疑義照会という業務がある。患者に間違った薬を与えないための最後のとりでの役目となる。本書でもこの疑義照会が大きな鍵となっている。
【あらすじ】水尾爽太は神楽坂にあるホテルのフロント係。足の裏全体が痛がゆくなって、近所の病院に行くと水虫との診断で処方薬を受け取る。足を清潔に保ち、薬も小まめに塗っているのだが、一向にかゆみが治まらない。再度病院に行くと、けんもほろろに同じ薬を処方される。試しに以前とは違う薬局へ行ってみると、そこにいたのは爽太が以前近くの喫茶店で見かけたことのある長い髪をゴムで束ねて、黒縁のスクエアな眼鏡をかけた女性だった。
処方箋を渡して薬が効かないことを告げると、もしかすると水虫ではないと言われ、他の病院を紹介される。その彼女、薬剤師の毒島花織の予想通り、水虫ではなく接触性皮膚炎で、新たな薬を塗ったところすぐに治った。毒島は桁外れの薬オタクで、以後、爽太は彼女の助けを借りるようになる。
いつしか毒島に恋心を抱くようになった爽太だが、水虫と誤診した医者が偽のダイエット薬を格安で売っていると知った毒島は、薬剤師を辞める覚悟で伝家の宝刀、疑義照会をその医者に突きつけるのだが……。
【読みどころ】薬にまつわるさまざまな知識を織り込みながら、卓越した薬の知識を持つ毒島の推理が冴え渡る医療ミステリー。現在、シリーズ3冊が刊行されている。 <石>
(宝島社 803円)