「疑薬」鏑木蓮著
2010年前後、主要な大型医薬品の特許が次々に切れ、安価な後発医薬品(ジェネリック薬)に取って代わられ、先発の製薬企業の大幅な利益減が予想されるという問題が起きた。本書は、医薬品業界を襲ったこの大きな地殻変動を背景にした医学ミステリーだ。
【あらすじ】川渕良治は老舗の製薬会社、ヒイラギ薬品工業の主任研究員として副作用のほとんどない画期的な抗インフルエンザウイルス薬シキミリンβを開発し、実父の社長から表彰された。それから11年、社長の悟が病に倒れ、良治は社長代行となった。主力の高血圧治療薬の特許切れが迫る中、既存のシキミリンβの活用を主張する専務に抗して、良治は新薬創薬にこだわっていた。元研究者としてのプライドもあったが、自ら開発したシキミリンβに関してある秘密を抱えていたのだ。
同じ頃、大阪で両親の居酒屋を手伝っている生稲怜花のもとに矢島と名乗る新聞記者が訪れる。母の怜子は10年前に病気にかかり失明したのだが、矢島は、最近高齢者施設でインフルエンザにかかって亡くなった老人2人と怜子は同じ医師の手で同じ薬を処方されていて、怜子の失明はそのせいかもしれないという。もしそうなら、処方した医師と製薬会社を絶対に許せない。10年前の記憶を思い起こしながら真実を探っていく。
一方、良治も薬を処方した医師三品の不可解な動きを知り、シキミリンβに関する秘密に直面せざるを得なくなる。怜花と良治の問題はどうつながっていくのか……。
【読みどころ】製薬会社の新薬開発の熾烈な競争や薬品の副作用の問題、新薬認可をめぐるさまざまな規制など、いくつもの糸が織り合わされて現代医療の問題点に鋭く迫る問題作。 <石>
(講談社 924円)