外国人収容施設での面会を隠し撮り
「牛久」
ふだんは政権批判などしたがらない経済紙に「『残酷日本』鎖国に失望」という見出しがあって驚いた。記事によると、在留資格を得ながらコロナ禍を理由に入国できない留学生や技能実習生らが約37万人いて、このままでは規制を緩めた韓国などの後塵を拝することになるという。
しかし外国人排除の「鎖国状態」はこればかりではない。その実態を暴くのが今週末公開のドキュメンタリー映画「牛久」だ。
茨城県牛久にある出入国在留管理庁の東日本入国管理センター。実は「不法滞在者」とされた外国人を強制収容する施設である。昨年3月、名古屋の入管施設で亡くなったスリランカ女性ウィシュマさんの事件は大きく報じられたが、同様の問題が牛久でも長く放置されてきた。
これを知って撮影に挑んだのが日本在住のアメリカ人ドキュメンタリー作家トーマス・アッシュ。3.11後の福島の子どもたちを描いた作品などがあるが、牛久では収容者との面会を隠し撮りして実態に迫った。
まるで刑務所の面会室のような場所で口々に虐待の惨状を訴える収容者たち。他方、国会の委員会質疑では役人が書いた無内容の答弁をそのまま棒読みする法務大臣。
しばらくするうちに、見覚えがあると思った。入管問題だけでなく、閉鎖的で仲間内以外に無頓着な日本社会の姿に既視感があった。
思い出すのが山本七平著「『空気』の研究」(文藝春秋 715円)の冒頭に出てくるエピソード。1974年、三菱重工爆破事件の際、道路に倒れた重傷者を通行人は黙って見ているだけ。介抱する姿もあると思ったらどれもが会社の同僚だったという。要は他人の不幸を一顧だにしないのが日本だという話である。そんな国柄の一体どこが「おもてなし」だ、という収容者の言葉が胸に刺さる。 <生井英考>