過酷な労働環境にひとりの女性が立ち上がる

公開日: 更新日:

「メイド・イン・バングラデシュ」

「今年7月末に閉館」のニュースで大勢の映画ファンが故郷を失うように感じたのが神保町の岩波ホール。その空白を埋めるように最終期のラインアップは佳作ぞろいで、4月16日封切り予定の「メイド・イン・バングラデシュ」もそのひとつだ。

「世界最貧国」などと失礼な通称もある国だが、首都ダッカを訪ねた筆者の管見では、通りを走る車の多くが汚れてはいても新しい。経済成長の勢いを感じたものだ。

 とはいえ、そこでも日陰者扱いなのが庶民の女性。男尊女卑の伝統の下、失業の亭主を抱えて賃仕事をする女性たちは多い。仕事は、先進国のファストファッションの縫い子。賃金が最低水準以下なのは周知の通りだろう。

 その搾取労働の実態に迫ったのが「メイド・イン・バングラデシュ」なのである。

 ダッカの裏通りにある縫製工場で働くシム。夫は失業中。工場ではボヤを理由に雇い主が賃金を未払い、帰れば家賃滞納で大家の怒声を浴びる。そこで知り合ったNPOの女性から労働組合の話を聞き、仲間を募って結成に動き出すものの……という粗筋は予想にたがわない。しかしそれこそが偽らざる現実なのだ。

 バングラデシュでは珍しい女性監督ルバイヤット・ホセインは経歴を見ると相当なエリートだが、リサーチは堅実で浮ついた成功譚には振り向かない。現実との接点はシム役の女優リキタ・ナンディニ・シムの存在感と、フランスの女性撮影監督サビーヌ・ランスランの色彩感にある。

 ナイラ・カビール著「選択する力」(ハーベスト社 3960円)は、ロンドンのバングラデシュ移民女性と故国ダッカの労働環境を比較した労働社会学者の著作。たとえ低賃金でも英国のほうが、結果としてなにがしかの自由が得られるという。その結論にこそ、実は南北問題の本質が隠されてはいないだろうか。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    野呂佳代が出るドラマに《ハズレなし》?「エンジェルフライト」古沢良太脚本は“家康”より“アネゴ”がハマる

  3. 3

    岡田有希子さん衝撃の死から38年…所属事務所社長が語っていた「日記風ノートに刻まれた真相」

  4. 4

    「アンメット」のせいで医療ドラマを見る目が厳しい? 二宮和也「ブラックペアン2」も《期待外れ》の声が…

  5. 5

    ロッテ佐々木朗希にまさかの「重症説」…抹消から1カ月音沙汰ナシで飛び交うさまざまな声

  1. 6

    【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話

  2. 7

    「鬼」と化しも憎まれない 村井美樹の生真面目なひたむきさ

  3. 8

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 9

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  5. 10

    松本若菜「西園寺さん」既視感満載でも好評なワケ “フジ月9”目黒蓮と松村北斗《旧ジャニがパパ役》対決の行方