映画監督カップルの精神的な関係が話の核
「ベルイマン島にて」
ウクライナ報道の嵐で影が薄いが、この4月は「女性活躍推進法」が改正され、中企業にも報告義務が課された。
だが実は制度化が進むと、抑えられていた側の不満の声は逆に高まる。人種問題もそうだが、長年の抑圧が改めて自覚され、怒りや恨みが噴き出す。その力学を理解しないから、主流社会の側は「好転したはずなのに」と反発し、一転して態度を硬化させる。
近ごろの女性監督の映画にもそのへんの気配がうかがわれるように思うのは気のせいだろうか。今週末封切りの「ベルイマン島にて」も、この機微を連想させる作品だ。
主人公は若手の映画作家クリス。夫は引く手あまたの有名監督トニー。2人はスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンゆかりのフォーレ島に滞在し、それぞれ次作の構想を練る。その間柄は26歳年上のオリビエ・アサイヤス監督と高校時代に出会い、のちに結婚した監督ミア・ハンセン=ラブの体験の反映だろう。ベルイマン自身、20歳年下の女優リブ・ウルマンが公私の伴侶だった。
しかし話の核心は年の差婚とかではなく、同志同業ながらもキャリアに差のある男女の精神的な関係だ。進まない脚本を前に途方に暮れるクリスを前に、夫のトニーはひっきりなしの電話や出張に忙しい。それだけでクリスは圧力を感じて悩む。その気持ちを託した筋立てを夫に語る場面の仕掛けは、なかなか秀逸だ。
新木安利著「サークル村の磁場」(海鳥社 2420円)は筑豊の炭鉱労働運動の場で文学サークルを率いた作家・上野英信と晴子夫妻、詩人・谷川雁と作家・森崎和江の2組を描くノンフィクション。当時は無意識だったろう男たちの身勝手と甘えが、ここでは見逃さず捉えられている。水溜真由美著「『サークル村』と森崎和江」(ナカニシヤ出版)もあるが、書店で入手難なのが惜しい。 <生井英考>