倉阪鬼一郎(作家)

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4月×日 埼玉県で行われた戸田・彩湖フルマラソンに参加。コロナ禍で2年半ぶりのフルマラソンになる。フル89戦目だが、こんなに間隔が空いたのは初めて。当日は夏日で、まだ暑熱耐性ができていない時季には厳しく、おまけに左腰を痛めてしまって早々にリタイアという残念な結果になってしまった。

4月×日 毎年受けている大腸内視鏡検査に。今年もポリープの除去手術を受ける。1週間の禁酒と運動禁止はつらいが、故障したばかりでちょうどいい休養にはなった。読めなかった分厚い本にも手が伸びる。

4月×日 というわけで、オリヴァー・オニオンズ著「手招く美女」(南條竹則ほか訳 国書刊行会 3960円)を読む。近年の英米怪奇小説の翻訳は未曾有の活況を呈しており、スモールプレスや電子書籍オリジナルを含めると百花繚乱の趣がある。同じ版元からもジョン・メトカーフの充実した精選集「死者の饗宴」(2860円)などが刊行されているが、真打ちとして上梓されたのが本書だ。

 斯界の大立役者とも言うべきM・R・ジェイムズの短篇集のタイトルに「好古家の怪談集」があるが、その衣鉢を継ぐ穏健な怪奇小説家は数多い。マンビー、モールデンなどの滋味掬すべき古き良き怪談の書き手だ。逆に、ヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」など、手法が先鋭化され、実際に何が起きたのかという明確な解答が保証されない前衛的な作品もある。こちらの流派の代表格であるロバート・エイクマンの作品などは、時として何が書かれているのかわからなくなってしまうほどだ。

 その2つの流れの「いいとこどり」をしているのが本書の表題作だ。作中の怪異は疑いなく起きている。言わば、怪異は外から襲ってくる。しかし、それに翻弄される主人公は内面から壊れていく。内と外、両方から攻められる読者はだんだん逃げ場がなくなってしまう。真打ちにふさわしい重厚な傑作だ。

【連載】週間読書日記

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