世間になじめない人間の業を描いた「幻の傑作」
「WANDA/ワンダ」
どうしても世間になじめない人間がいる。なじめないまま、居心地の悪さをうまく受け流せずに落ちてゆく。今週末封切りの伝説の映画「WANDA/ワンダ」はそういうアメリカの物語である。
伝説というのは、これが長年「幻の傑作」とされたインディーズ作品だからだ。1970年の製作ながら忘れられ、近年フランスで再評価されて新たにフィルムの修復や映画祭への招待などに至った。
主人公はワンダ・ボロンスキーという炭鉱で働く夫の女房。赤ん坊を放置し、酔い潰れてソファで寝入る裸の女というタガの外れた登場ぶりだが、演じるのは監督と脚本を兼ねたバーバラ・ローデン本人だ。
似た名前の女優にバーバラ・イーデンがいて、こちらはテレビの「かわいい魔女ジニー」の主演。本作で名前を聞いてとっさに思い出したのはジニーのほうだったが、どっちも痩せぎすのブロンドながら設定はコインの表裏のように対照的。ただし、である。よく見るとワンダもジニーも身勝手な相手に従順な、“男に都合のいい女”なのだ。
一説によると、この受け身的な描き方がフェミニストの悪評を買って評価されなかったというのだが、いま見て素直に感じるのは、女であれ男であれ世間になじめない人間の業というもの。現にワンダの受け身の振る舞いは服従的というより、なじめない世間に巻き込まれてゆく悲しみを全身ににじませているのだ。
ネルス・アンダーソン著「ホーボー」(ハーベスト社 上巻2750円、下巻3080円)は世間をはみ出して、働きながら全米をさまよう労働者、通称「ホーボー」たちの生を追った社会学の古典。田舎の放浪者的イメージが強いホーボーだが、本書によればワンダと同じように都会の周縁部を流されてゆく存在だという。かつては男だけだったホーボーやホームレスも、ワンダの頃から女の姿が増えて、いまに至っている。 <生井英考>