東京大空襲の日に読みたい 戦争を考える本特集
「反戦の書を読む」河村義人著
3月10日は死者10万人以上を出した東京大空襲の日。あれから78年の歳月がたった今、世界ではロシアによるウクライナ侵攻が続き、あの時と同じように多くの市民が犠牲となっている。そこで今回は、5冊の戦争本をご紹介。人が繰り返してやまない戦争について多角的に考えてみよう。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が起こる今、戦争はリアルタイムで可視化されるものになった。もはや戦時中になってしまったこの時代に反戦をテーマにする本、48冊をずらりと紹介しているのがこの本だ。
「きけわだつみのこえ」や「夜と霧」、「黒い雨」などの名著はもちろん、政府の方針に異議申し立てをした石橋湛山の「石橋湛山評論集」、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英の「科学者は戦争で何をしたか」、自民党が改正をもくろむ「日本国憲法」などをピックアップ。
羽仁五郎の「君の心が戦争を起こす」の章では、適応主義についての一節を抜き出し、長い物に巻かれてしまう危険性を指摘。再軍備賛成の空気に異を唱えず適応しているうちに、結局、戦争協力を余儀なくされるという流れがなんとも恐ろしい。
(垣内出版 1980円)
「増補版『戦争と平和』の世界史」茂木誠著
駿台予備学校で世界史講師を務め、歴史系ユーチューバーとしても活躍中の著者による世界史を通じて読み解く戦争と平和の書。
石器時代から古代国家の戦争、宗教戦争、ビジネス化した戦争、2度の世界大戦、戦後の米国支配などについて解説。
ウクライナ戦争を受けて加筆した今回の増補版では、「日本を戦場にしないために」と題し、この戦争から何を学ぶかについても言及している。戦後国連による平和という虚構に取り込まれた日本は、江戸幕府ならぬアメリカ幕府の圧倒的パワーの下で平和を享受したにすぎない。
著者は、国連安保理常任理事国で核保有国であるロシアが核を持たないウクライナに攻め込み、国連が阻止できない事態になった今の状況は重大であり、日本はNATO型集団安保体制を構築すべきだと唱えている。
(TAC出版 1980円)
「戦争がもたらすものを撮る」堀ノ内雅一著、五十嵐匠語り
太平洋戦争末期、多くの住民を巻き込む地上戦が起こった沖縄。本書は、そんな沖縄戦をテーマにした映画「島守の塔」の監督・五十嵐匠の軌跡を追ったもの。
五十嵐監督は、ベトナム戦争を撮り続けた沢田教一を追った「SAWADA」や、カンボジアなどの戦場を走り抜けた戦場カメラマン・一ノ瀬泰造を描いた「地雷を踏んだらサヨウナラ」など、戦争をテーマとした映画との関わりが深い。そうしたなか彼は戦争そのものではなく、戦争が何をもたらすのかを撮るというスタンスにたどり着く。
本書では、彼の監督としての足跡とともに、コロナ禍での撮影中断がありながらも戦時中に命を守ることに奔走した人の存在が忘れ去られることへの危機感を抱いた人々の協力を得て最新作が完成へとたどり着いたことが語られている。
(泉町書房 2530円)
「帝国日本と不戦条約」柳原正治著
明治維新後、世界の一等国になろうとした日本は国際法秩序に当事国として深く関わってきた。だが、こうした努力にもかかわらず日本は満州事変から戦時体制に突入していく。
本書は、外交官としてパリ講和会議の委員を務め、国際連盟の発足にも携わった安達峰一郎の足跡をたどりながら、国際法の視点から戦争と不戦条約の関係を問い直した意欲作だ。第1次世界大戦の反省から、世界は戦争の違法化を進めるべく、国際裁判と不戦条約を提示した。しかし、この不戦条約は国家の政策の一部としての戦争に限定して放棄したにすぎず、抜け道があった。
著者は、戦争を起こさないためには自国の平和のみを希求するのでも平和を単に唱えるだけでもなく、国際法を守りつつも国際法の改善と拡張を目指すべきだと説いている。 (NHK出版 1540円)
「日本の戦略力」進藤榮一著
かつて世界一の経済力を手にした日本は、今や見る影もないほど衰退の一途をたどっている。本書は、日本衰退の原因を探りそこからの反転のシナリオを探る書だ。
敗戦後の日本は経済成長に活路を見いだしたはずが、プラザ合意後のバブル崩壊を経て「第2の敗戦」に追い込まれた。さらに基地と原発で対米従属外交下に置かれる「第3の敗戦」状態が続いている。
米国の政治学者ブレジンスキーは、世界には敵対国と同盟国と進貢国の3種類があり、日本は米国に貢物をする進貢国である。よって日本は、帝国の保護を受ける状態を維持することが、米国にとって重要だと示唆する。
著者は米国の意図と多元主義的外交へ進む中国の姿を指摘。日本は中国脅威論や軍事同盟主義から脱却し、アジア新興国と経済的政治的な相互補完関係を築くべきだと主張している。
(筑摩書房 2090円)