知って納得、見て驚き 生き物本特集
「知らなかった!パンダ」アドベンチャーワールド「パンダチーム」著
日本から中国へのパンダの返還がニュースとなった昨今。この機会に、世の中にいる多種多様な生物について改めて知ってみるのはいかがか。今回は、動物や昆虫の行動学や生態学といった観点から楽しめて、癒やされるだけでなく知的好奇心も刺激される5冊をピックアップしたぞ。
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「知らなかった!パンダ」アドベンチャーワールド「パンダチーム」著
先ごろ3頭のパンダを中国へ返還した和歌山県のアドベンチャーワールド。20頭のパンダを育てた日本屈指の飼育スタッフたちが、パンダという不思議な生き物の生態を徹底解説する。
パンダの最大の特徴といえば白黒の可愛い配色。しかし当然ながらこれは可愛さのための色ではない。目の周りが黒で縁取られているのは、大きな目に見せて敵を驚かすためや、急所である眼球に直接攻撃されにくくするためであるという。
四肢と耳が黒いのは、熱吸収をよくするため。パンダの主な生息地は山岳部の寒冷な環境であり、背中に黒い部分が回っているのも太陽の熱を受けやすくするためと考えられているそうだ。主食が竹になったのは、生存競争に勝つためで、かつては小動物も食べていたが、ほかの獰猛な肉食動物との争いを避けるために標高の高い山に移動した結果だという。
鳴き声や寝言、赤ちゃんが未熟な理由など、パンダのすべてが分かる。
(新潮社 1595円)
「イヌ 人類最初のパートナー」パット・シップマン著 河合信和訳
「イヌ 人類最初のパートナー」パット・シップマン著 河合信和訳
人間にとって大切なパートナーであるイヌ。その歴史は、古代人がオオカミの幼体を捕まえ、人になれさせて育て、交配させたことに始まる……などという説があるが、実はそう単純な話ではないという。
本書では、古人類学の専門家である著者が、4万年ほども歴史を遡りながら人間とイヌとの関係をひもといている。早期現生人類がネアンデルタール人との競争に勝利した背景にも、イヌ科動物との協力関係があったと著者は仮定している。
そもそも古代のオオカミ・イヌは、なぜ人間と協力関係を結んだのか。早期現生人類は彼らに比べて弱く平凡なハンターだったが、槍や弓矢のような飛び道具を持ち、明るく暖かいたき火を扱い、獲物を分け合って暮らしていた。オオカミ・イヌはそんな人間の姿を観察し、自らの技量を補完する相手として認めたことが、長い歴史の始まりではないかと考察している。
イヌと人類の壮大な歴史の旅に心が躍る。
(青土社 2640円)
「ファーブル 驚異の博物誌」イヴ・カンブフォール著 奥本大三郎ほか訳
「ファーブル 驚異の博物誌」イヴ・カンブフォール著 奥本大三郎ほか訳
幼い頃、夢中で読んだ「ファーブル昆虫記」。本書では、昆虫行動研究の先駆者であるファーブルの記した全10巻の大作である「昆虫記」を、有名な箇所を厳選しながら新たな写真を添えて蘇らせている。
ファーブルが40年以上の長きにわたり、繰り返し研究の対象としていたのがスカラベ・サクレ、いわゆるフンコロガシである。その名の通り、動物の糞を集めて球状にし、巣の食堂までコロコロと転がしていくのだが、実は注目したいのが球の作り方だという。
まず糞の山のほうぼうから良い材料を選び取るのだが、その際に大いに活躍するのが頭部にある“熊手”。フンコロガシの頭部は短いツノを粗い櫛状にならべたような平たい形状をしており、この熊手で糞を掘り起こしたり抉り取ったりすることができる。本書には、大迫力の頭部の写真も掲載されており、自分が小さくなったように錯覚してしまう。
大人も楽しめる昆虫記だ。
(エクスナレッジ 2640円)
「猫はなぜごはんに飽きるのか?」岩﨑永治著
「猫はなぜごはんに飽きるのか?」岩﨑永治著
グルメ、気難しい、すぐに飽きる。猫を飼ったことがある人ならほとんどが経験するエサに対する悩みに、猫の栄養学を専門とする著者が解決方法を伝授する。
猫がエサに飽きる理由は、ネオフィリアという新しもの好きの性質にあるという。野生の猫が獲物とする小型の哺乳類は、昆虫や植物と比較して格段に少ない。そのため、初めて見た獲物でも抵抗なく食べられる性質がついており、結果として同じエサには飽きてしまうのだ。
そこでお勧めなのが、数種類のエサをローテーションすること。猫が新しいエサをおいしいと感じるのは最長3日なので、3日ごとに変えるのが望ましい。風味の違うエサを、猫が変化を感じやすい30%以上ミックスするのもいい。
また猫は“猫舌”ではなく、38.5度ぐらいの温かい食べ物が好きなので、温めてやるのもお勧め。これは獲物である小動物の体温とほぼ同じ温度だ。
猫の性質を知り、気まぐれに対抗しよう!
(集英社 1760円)
「流されて生きる生き物たちの生存戦略」吉村真由美著
「流されて生きる生き物たちの生存戦略」吉村真由美著
時に枯れ、時に氾濫する過酷な川で暮らす水生の生き物たちの、鮮やかな生存戦略を明らかにしている本書。
水生昆虫は、水の中に溶けている酸素を利用したエラ呼吸や、体表の微細な毛を利用して空気の膜を作るプラストロン呼吸などを行っている。
しかし、流れの弱い場所や汚染された水の中では酸素量が低くなり、呼吸できなくなる。すると、水生昆虫たちは自ら新たな水流を生み出し酸素量を増やすのだという。
たとえば、カゲロウの幼虫は腹部のエラを川床にたたきつけて、体の大きなカワゲラは腕立て伏せをして水流を生み出すのだ。
洪水が起き、川の外に流されてしまった場合はどうするのか。小さな虫など死んでしまうのかと思いきや、水が引くまで粘り気のある土壌に潜り込み、これ幸いと休眠して生存期間を延ばしているというからたくましい。
創意工夫にあふれた“流されて生きる”戦略。見習いたい。
(築地書館 2640円)