「道草ワンダーランド」多田多恵子著
「道草ワンダーランド」多田多恵子著
散歩や通勤での外歩きが楽しみな季節となった。
その際に通勤路や花壇、公園などで見かける身近な植物の生きる知恵や工夫を教えてくれるビジュアル植物テキスト。
例えば春、多くの樹木が芽吹いて新しいを葉を広げるが、淡い黄緑や緑白色にまじって、赤い新芽が目につく。
ツツジ科のアセビやカナメモチ、アカメガシワ、バラもそうだし、ヤマザクラの新芽は赤褐色だ。
ご存じのように、葉は光合成で植物に必要な成分やエネルギーを作る大切な工場。しかし、広げたばかりの新芽の葉は、柔らかく未熟で、分裂を繰り返している葉緑体やその中枢を担うDNAは、赤ちゃんのように無防備で、強すぎる太陽光、特に紫外線にさらされると取り返しのつかないダメージを受けてしまう。
そこで植物は、赤い色素の「アントシアニン」を「サングラス」にして紫外線から葉を守っているのだという。
コブシやモクレンのように冬芽や幼い葉のふわふわした毛もUVカットのサングラスの役割を果たしているそうだ。
葉が成長すればサングラスは不要になり、アントシアニンも合成されなくなり、葉は緑に変わる。
ほかにも、スミレの仲間に共通する花の後方に天狗の鼻のように突き出した「距(きょ)」と呼ばれる出っ張りの秘密や、実は150もの小さな花の集まりだというタンポポの花(花びらに見える部分が1個の花)など。
春の植物にはじまり、ハスやサトイモ、カタバミの葉の水をはじいて玉にする防水効果(ロータス効果)の仕組みやカラタチなどの植物がトゲを持つ理由など、夏の植物へと続き、四季それぞれの身近な植物の姿かたちの理由や生存戦略を分かりやすく解説する。
ゴールデンウイークも間近。外出中にふと足を止め、道端の植物を観察したくなる道草のすすめ本。
(NHK出版 1925円)