「音楽と生命」坂本龍一、福岡伸一著
「音楽と生命」坂本龍一、福岡伸一著
今年3月に亡くなった音楽家の坂本龍一氏と、生物学者の福岡伸一氏の対談本。専門分野は違うものの、キャリアを重ねたからこそ見えてきた、ふたりに共通する問題意識について語り合う。
話題の根底に流れるのは、人間が作り出す言語や論理である「ロゴス」と、人間という生き物を含めた自然そのものである「ピュシス」の対立についてだ。人は自然の中からある種のロゴスを切り取ろうとする傾向があり、そのほかのものはノイズとして無視する。
これは地と図の関係ともいえるという。坂本氏は、図(ロゴス)をいかに美しいものにするかというような形で音楽が発展してきたことを説明しながら、自身が9.11を境に線的な音楽ではないものを求めるようになったと語っていく。
一方の福岡氏も生物の細胞をすりつぶして分類し続けるロゴス的な研究に疑問を感じて、ロゴスだけではとらえられない生命そのものの探求のために動的平衡という考えに至ったことを提示。
AI万能論や管理社会といったロゴスに偏る考え方の盲点を指摘しながら、全体像をとらえるための新たな思想のヒントを与えてくれる。
(集英社 2200円)