「元ヤクザ、司法書士への道」甲村柳市著/集英社インターナショナル

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「元ヤクザ、司法書士への道」甲村柳市著/集英社インターナショナル

 抜群に面白い半生記だ。独学で難関試験に挑む際のノウハウ本として読むこともできるし、アウトロー世界の実情を伝えるノンフィクションとしても秀逸だ。評者は獄中記として読んだ。

 評者は刑務所で服役したことはないが、2002年5月に鈴木宗男事件に連座して東京拘置所の独房に512日間勾留されたことがあるので、獄中生活についてはそれなりの経験がある。

 甲村氏の観察眼は実に鋭い。加えて記憶力が良い。例えば岡山刑務所(牟佐)の食事(ムショ飯)のまずさについてだ。
<全体的に施設の食事は「収容者の健康への配慮」を口実に塩分は控えめなのだが、牟佐は「控えめ」にもほどがあったし、米も古米どころか「古々米」というレベルで、炊いた飯が大きなダマになっていて、ベトベトだった。副食もこれまたマズい。/なぜ岡山刑務所がこんなに酷い飯であったかというと、そこに収容されている人間との関係があると思う。/(中略)たしかに岡山刑務所は殺人などの重罪を犯した、長期受刑者が収容されているが、それよりポイントなのはこの刑務所は初犯を受け入れる施設であるということだ。つまり、他の刑務所の飯を知らない連中だから、とても食えたものではない飯を出しても「刑務所だからこんなものなのだろう」と納得する。(中略)普通の累犯刑務所だったら、暴動が起きても不思議のないレベルだ>

 刑務所や拘置所では、午後9時に就寝(監視のため消灯ではなく、照明を暗くする減灯になる)、起床は午前7時なので睡眠欲は十分に満たされる。性欲も発散する機会がない(同性で収容されているが他人との性的行為は懲罰対象となる。マスターベーションは黙認されている。ただし、故意に陰部を露出したという理由で懲罰対象になるリスクが全くないとは言えない)。だから食欲が異常に昂進する。累犯刑務所で酷い飯を出したら暴動が起きるというのは決して誇張ではない。

 甲村氏は現在、司法書士、行政書士として活躍しているが、内閣情報調査室、公安調査庁、外務省国際情報官組織などでのインテリジェンス分析を担当したら、よい成果を出すと思う。

(2023年6月18日脱稿) ★★★(選者・佐藤優)

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