「知らないと恥をかく世界の大問題14 大衝突の時代−加速する分断」池上彰著/角川新書
「知らないと恥をかく世界の大問題14 大衝突の時代−加速する分断」池上彰著
最近の内外情勢をコンパクトにまとめた好著だ。特にウクライナ戦争に対する分析が優れている。池上彰氏はこの戦争の本質を米ロの代理戦争と見ている。
<ロシアがウクライナに侵攻すると、アメリカやヨーロッパの国々はウクライナ軍を支援しました。しかしロシアとアメリカは、直接には戦争しない。これはかつての東西冷戦時代と同じ構図の代理戦争でしょう。/東西冷戦時代、朝鮮半島で発生した朝鮮戦争で、北朝鮮をソ連と中国が支援し、韓国をアメリカが支援しました。ベトナム戦争も、北ベトナムをソ連と中国が支援し、南ベトナムをアメリカが支援しました。これも代理戦争でした。東西冷戦時代は、世界のあちこちで代理戦争が行われました。/今回はまさにウクライナで、その代理戦争が行われているということです>
評者もこの戦争は米ロの代理戦争であると認識している。
ロシアがウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」と非難していることを日本の大手メディアは事実無根と退けているが、池上氏の見方は異なる。
<(第2次世界大戦中に)ドイツ軍に協力したウクライナ人の民族主義者組織の指導者がステパン・バンデラといいます。彼らはドイツに協力してウクライナ国内のユダヤ人狩りに手を染めていました。ソ連がドイツに打ち勝った後、ウクライナではバンデラは唾棄すべきナチスの一味というのが公式見解になりました。/しかし、ソ連が崩壊してウクライナが独立を果たすと、「ウクライナ独立のために戦った」という再評価が行われました。(中略)/さらにバンデラを評価する勢力が、民間の「アゾフ連隊」を組織し、2014年にウクライナ東部で親ロシア派勢力による武装闘争が始まると、戦場で戦っていました。その後、アゾフ連隊は国家親衛隊として正式にウクライナ軍に編入されています。現在では設立当初のようなネオナチはほとんどいなくなったと言われていますが、プーチン大統領は、この事実を指して「ネオナチだ」と非難しているのです>
ナチスに積極的に協力した反ユダヤ主義者のバンデラを英雄視するのがウクライナ現政権なのだ。 (2023年6月12日脱稿)
★★★(選者・佐藤優)