「文豪たちの関東大震災」児玉千尋編

公開日: 更新日:

「文豪たちの関東大震災」児玉千尋編

 100年前の9月1日に起こった関東大震災。首都で起きた震災だったため、被災者の中には文豪たちも数多く含まれた。芥川龍之介は、その年の8月、鎌倉にいた。座敷からは藤の花、八重の山吹が花をつけているのが見えた。小町園の庭の池にはショウブも咲いている。季節を無視して咲く花たちに、これはただごとではないと感じ、「天変地異が起こりそうだ」と友人たちに言うが誰も真に受けなかった。

 東京に戻った芥川は数日後、昼食中に揺れに遭う。幸いにも家は被害がなく、芥川は余震が収まると大八車を借りて駒込染井の市場に食料を調達しに行った。

 大震災の日、室生犀星の妻は産後4日目であった。病院は焼失、上野公園に避難しているはずとの情報を得た室生と甥は、電車のない道路を歩き公園へ。公園内は人いきれと小便の臭いでドジョウのいけすのようだったが、ふと美術館の建物が目につき扉を開けると、そこに妻と看護師がいた--。

 室生一家が金沢へ避難しようと苦心する様子や、吉原の池へ死骸を見に行った川端康成、京都から被災地を訪れた志賀直哉ら22人、29編の関東大震災にまつわる小説や随筆などを集めた災害文学集。震災の実態が生々しく描かれると同時に、驚き慌てる文豪たちの人間味あふれる姿が立ち上がる。異常気象が続く今、ぜひ一読しておきたい。

(皓星社 2200円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    「かなり時代錯誤な」と発言したフジ渡辺和洋アナに「どの口が!」の声 コンパニオンと職場で“ゲス不倫”の過去

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    「よしもと中堅芸人」がオンカジ書類送検で大量離脱…“一番もったいない”と関係者が嘆く芸人は?

  1. 6

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 7

    入場まで2時間待ち!大阪万博テストランを視察した地元市議が惨状訴える…協会はメディア取材認めず

  3. 8

    米国で国産米が5キロ3000円で売られているナゾ…備蓄米放出後も店頭在庫は枯渇状態なのに

  4. 9

    うつ病で参議員を3カ月で辞職…水道橋博士さんが語るノンビリ銭湯生活と政治への関心

  5. 10

    巨人本拠地3連敗の裏に「頭脳流出」…投手陣が不安視していた開幕前からの懸念が現実に