「ゴリラ裁判の日」須藤古都離著
「ゴリラ裁判の日」須藤古都離著
物語は冒頭、ハミルトン郡の裁判所の法廷シーンから幕を開ける。原告はローズ・ナックルウォーカー、被告はクリフトン動物園。ローズは、夫・オマリが、敷地に落ちてきた4歳の子どもを引きずりまわしたとして銃殺された件で、訴えを起こしたのだ。しかし、結果は敗訴。理由は、ローズたちニシローランドゴリラより、人間の命のほうが優先されて当然だからだった──。
カメルーンの自然保護区で育ったローズがアメリカの動物園にやって来たのは1年半前。保護区の研究所で手話を教えられたローズは言葉を理解し、人間と会話することも出来た。そんなローズが、裁判の結果を「正義は人間に支配されている」と非難したため、園との関係が悪化。ローズは手を差し伸べてくれたプロレス団体へ移籍し、悪役プロレスラーとして活動を始める。
第64回メフィスト賞受賞作。ローズを利用したい議員、CM起用など、多くの人が無欲なローズに群がり一躍人気者になるが、事件を機に「人間対ゴリラ」の構図へと様相を変える。物語はローズの視点で描かれ、「人権とは」「人種とは」と戸惑うローズの姿は、人間界の問題に重なって見える。
ローズが再び法廷に立つラストが圧巻。臨場感あふれ、先の読めない展開に一気読み必至だ。
(講談社 1925円)