「台湾漫遊鉄道のふたり」楊双子著、三浦裕子訳
「台湾漫遊鉄道のふたり」楊双子著、三浦裕子訳
昭和13年、5月。「青春記」がヒットした作家の青山千鶴子は、同名の映画が上映されたことを機に台湾への講演旅行に招かれた。大食漢の千鶴子は、現地の食文化に詳しくて料理もうまい台湾人通訳の王千鶴と出会い、彼女の案内のもと台湾縦貫鉄道に乗り込む。
台湾各地を訪れて土地の味を思い切り食べ尽くすなかで、千鶴子は千鶴のもてなしにすっかり魅了された。小説家と通訳という役割を超えて親しい友達になりたいと思い、千鶴にできることをしたいと思うものの、彼女の心の中には越えられない壁があることを感じ、いつしか焦りを感じ始める……。
本書の原作は、台湾を訪れた作家の自叙伝小説が台湾で翻訳されたという設定で描かれた「臺灣漫遊録」。放浪記を記した後に海外へ旅に出た林芙美子と、日本統治時代に台湾文学界で活躍した西川満が主人公青山千鶴子のモデルとなっている。
千鶴子の目を通し、台湾の食のみならず、女性同士の友情を超えた特別な感情の交流や、植民地時代の統治者側と被統治者側の複雑な関係が描かれており、食欲も知的好奇心も刺激する一冊となっている。 (中央公論新社 2200円)