「歌われなかった海賊へ」逢坂冬馬著
「歌われなかった海賊へ」逢坂冬馬著
第2次世界大戦時のドイツ。16歳のヴェルナーは、幼い頃に母が病死し、父親はナチスを揶揄した夢を密告されたことでゲシュタポに逮捕され、死刑判決を受けて先日死刑になり、たったひとりになったばかり。
居場所をなくした彼は、密告した男を殺そうとするが、その場に現れたエルフリーデという少女に邪魔される。彼女は、ヴェルナーに「君に会いたがっている人がいる」といい、「エーデルヴァイス海賊団」という小さな集まりに招く。それは、国民を一色に染めようとするナチ体制に反発し、大人の欺瞞にうんざりした少年少女の集まりだった。彼らの仲間となったヴェルナーは、市内に建設された線路の先に秘密にされている建物があることを知り、仲間と調べに行くのだが……。
「同志少女よ、敵を撃て」で2022年に本屋大賞を受賞した著者による最新作。現代に生きる歴史教師が、ある老人から渡された冊子に記されていたナチ時代のドイツの話として物語は展開する。
不正義を見て見ぬふりをした市民の行動が、結果どんな社会をつくるのか、今の時代につながる問題として考えさせられる。
(早川書房 2090円)