「グリーンランド」高橋美野梨編
「グリーンランド」高橋美野梨編
日本の約6倍の面積を持ち、ほとんどが北極圏に位置するグリーンランドは、極東ロシアのチュコトカ半島から出発したアラスカやカナダのエスキモーたちの終着地であると同時に、北ヨーロッパから新たな地を求めて移動したノース人や18世紀に宣教師団となったデンマークやノルウェーの人々の目的地でもあった。
本書は、これらの合流点として育まれたグリーンランドにおける人々の営みを、人類学、政治学、宗教学、文学などの知見をもとに描いた日本で初めての論集だ。
人と自然が共生的に関係付けられるエスキモーの世界観と、自然を合理的にコントロールしようとする西洋の世界観の2つの混交といわれてきたグリーンランド。近年は、地球温暖化や資源などの視点から理系的視座で語られがちだったが、本書は人文科学の知見から浮き彫りにしているのが特徴だ。
中世グリーンランドにおけるエスキモーとバイキングの接触、デンマークのグリーンランドの植民地化、先住民の世界観とキリスト教との習合、儀礼の変遷、エスキモー社会の物語と西洋の人魚文学などのテーマから、極北の島の本当の姿が見えてくる。
(藤原書店 3960円)