「夜明けを待つ」佐々涼子著
「夜明けを待つ」佐々涼子著
家族、病、終末医療などをテーマに「エンジェルフライト」「エンド・オブ・ライフ」など大ベストセラーを生み出してきたノンフィクション作家の著者が、書きためてきた作品から厳選。
中2の夏、広島からふらっとやってきた祖父とうなぎを食べ、新宿駅で別れた。祖父は肝臓がんで、家に帰り着くと身の回りの品々を整理した。理髪店に行って髪を切りそろえた翌日に入院し、帰らぬ人となった。母が難病になり、胃ろうをつけるかどうかの判断を迫られた。
著者自身が体験した、その2つのエピソードをつづった「『死』が教えてくれること」などエッセー33編と、介護の現場で働く外国人たちに迫った「看取りのことば」など生死に通底するルポルタージュ9編が収められた。
あとがきに「私には残された時間が少ない」と明かす。著者は悪性の脳腫瘍にかかっていて、「あと数カ月で意識が喪失し、あの世へ行くらしいのだ」と。「(死は)誰もがいずれ通る道だ」ともある。55歳の著者が圧倒的な気概を持ち得たのはなぜか。その答えが全編に詰まっている。
誰にも幸せな生き方・死に方の道しるべになる一冊だ。
(集英社インターナショナル 1980円)