「遠くから見たら島だった」ブルーノ・ムナーリ著、関口英子訳
「遠くから見たら島だった」ブルーノ・ムナーリ著、関口英子訳
原稿を書こうとパソコンに向かったはずなのに、気づいたらくだらないコタツ記事を読んでいる。SNS上で繰り広げられる見知らぬ他人どうしの不毛な喧嘩を追っている。あぁ、なんと非生産的な時間だろう。人生は短いのに、わたしはなにをやっているのか。
と自分にあきれているときに、このヘンテコな本に出合った。美術家ブルーノ・ムナーリが、各地で拾ってきたお気に入りの石を見せびらかすだけの写真絵本である。「石ころだらけの場所ですごすヴァカンスほど、楽しいものはない」と言うムナーリさん。海岸を延々と歩き回って好きな石を探し、拾ってきたそれらを飽きずに眺める。石は家族に見えてきたり、ミニチュアの島になったり。表面に絵を描いて遊ぶこともできる。
最初は、石を拾ってきて愛でるなんてずいぶんのんきな趣味だなぁと思った。それこそ非生産的だと。
でもこの本は不思議な力を持っていて、何度も読み返してしまうのだ。ただの石ころが、この世界の奥行きをぐっと広げる。読みながらそれを追体験するたびに、気持ちが晴れる。
「石は、発見に満ちた世界だ」から始まるテキストもいい。ゆったり、とぼけた味わいで何度読んでもにんまりできる。石の採集場所として文中に出てくるレヴァント付近の海岸、ガルガーノ半島、エルバ島の向かいのバラッティ海岸なんてイタリアの地名を地図で探すのも楽しい。
あぁ、インターネットの狭い世界で無駄な時間を過ごしているくらいなら、石を探しにいくほうがどれだけ心の恵みになるだろう。楽しみはこの地球上に無数にある。(創元社 2640円)