「地政学時代のリテラシー」船橋洋一著/文春新書
「地政学時代のリテラシー」船橋洋一著/文春新書
朝日新聞の主筆をつとめ、日本のリベラル派の代表的論客だった(過去形にしているところに注意してほしい)船橋洋一氏の現状分析だ。率直に言うが、船橋氏の認識も提言も帝国主義的だ。それが同氏のサイバー安全保障に関する見方で端的に表れている。
<「セキュリティは一番弱い環の強さまでしか強くならない(Security is only as strong as the weakest link.)」。セキュリティには「社会一丸(a whole of society)」の取り組みが必要である。/(中略)日本に対するサイバー攻撃は五年前に比べ二・四倍に増えている。サイバー空間は、「非平和」、常在戦場であり、抑止理論も勢力均衡理論も未発達である。「専守防衛」ではサイバー空間は守れない。事前に攻撃者のサーバーなどへ侵入し、無害化できるような権限を政府に与え、官民連携し、「社会一丸」となって守る態勢をつくらなければならない>
サイバーに関し、日本も事前攻撃した場合、相手国がそれを宣戦布告と受け止める可能性がある。
今後、岸田文雄政権も官民連携、「社会一丸」となったサイバー防衛体制の構築を強調するようになると思う。
船橋氏は国家総動員体制の構築が重要と考えているようだ。
<米軍統合参謀本部(JCS)は二〇二三年に公表した「競争への共同コンセプト(Joint Concept for Competing)」の中で、経済安全保障を国家安全保障の中に統合することを提唱している。湾岸戦争で米国のすさまじい軍事力を目の当たりにした中国とロシアは、米国に「戦わずして勝つ」戦略を追求してきた。それなのに、米国はこれまで「戦って勝つ」ことだけに専念してきた。それでは「戦わずして負ける」ことになる、との危機惑を募らせている。そうさせないためには、「外交、経済、金融、情報、法律、インテリジェンス」、さらには「経済文化、商業産業、技術、イデオロギー、公衆衛生」における影響力と戦略的ポジションをつねに強化しなければならない>
要するに米国の国家システムを中国やロシアのような権威主義に転換することが国家安全保障上、合理的ということだ。「新しい戦前」が近づいている。(2024年2月8日脱稿)
★★(選者・佐藤優)