「決断」寺岡泰博著/講談社(選者:佐高信)
現場労組に苦労強いるUAゼンセン・連合の体たらく
「決断」寺岡泰博著
「労働組合は企業の病気を知らせる神経だ」と言ったのは宅急便をスタートさせたヤマト運輸の小倉昌男である。しかし、そう考える経営者は本当に少ない。
「そごう・西武61年目のストライキ」を決行した労組の委員長の著者は、セブン&アイ・ホールディングス(社長・井阪隆一)相手の闘いに支援を求めた「スーパー弁護士」の河合弘之から、「寺岡くん、これからは世論に訴えるんだから、デモでもストライキでもやればいいんだよ」とハッパをかけられても、「ストやデモが労働者のエゴであるような印象があって、どうしても積極的な気持ちになれなかった」人間だった。
その寺岡を仲間と共にストに踏み切らせたのは、「会社は地域社会によって成り立つ」という原理原則が分からない井阪たち経営陣である。なぜ、ヨドバシカメラに売却しなければならないのか等を社員に説明せず、強引に事を進める。労働組合無視も甚だしい。
しかし、残念ながら、これは珍しい例ではない。「ストライキだけは絶対やっちゃダメだ。インパクトが大きすぎるよ。小売業やってて、ストなんてやっちゃダメだと分かっているでしょ」と井阪は寺岡に電話をしたが、そこまで追い込んだのは井阪なのである。
しかし、もっと驚くのは、労組の上部団体であるUAゼンセンの幹部が、スト決行を翌日に控え、報告に足を運んだ寺岡に、こう言ったことだ。
「警視庁の公安部から指導を受けていまして、そのことをまずお伝えします。できればデモ行進はやめてもらえないですかね。危機管理としてSNSの様子を見ていると明日はいろんな労働組合が呼びかけていて相当数、集結する動きがあるようです。本体のそごう・西武労組と一緒になってぐちゃぐちゃになると、何が起こるか分からない。事件になってしまうかもしれないというんです。それを事前に防げるなら防ぎたいということなんですがね」
この本を読んでいて怒りのあまりページを破りたいと思ったのはこの部分である。上部団体のUAゼンセンは誰の味方で、何のために存在しているのか。UAゼンセンが属する連合の会長、芳野友子は腐り切った自民党のボス、麻生太郎と会食して喜んだりしているが、UAゼンセンや連合がこの体たらくだから、現場の労働組合はとてつもない苦労を強いられる。経営がデタラメになるのもそのためだということがよく分かる。 ★★★