「いきもの日和」こまちみゆた著

公開日: 更新日:

「いきもの日和」こまちみゆた著

 10年ほど前に大きな病を得た著者にとって心の支えは好きな絵を描くことだけだった。療養中に発表した作品が認められ、今はイラストレーターとして活動を続ける氏の作品を集めたイラスト集。

 モチーフは、今も暮らす生家の庭や散歩道、そして子どもの頃から親しんだ図鑑の中の小さな生き物たちだ。

 まずは「あたらしい命のめぐり」がはじまり、胸はずむ春の絵から。

 ハルリンドウと思われる紫色の花の蜜を吸うハチ、色とりどりのポピー、野草の陰から飛び出してきたヒキガエル、そして花を咲かせた紅梅の木の枝でなにやら言い争っているかのような小鳥など。

 季節の植物と春を謳歌する生き物がぬくもりのあるタッチで描かれる。どの絵にも、子犬のような独自のキャラクターが登場し、作品にファンタジーの魔法をふりかける。

 陸上や空の生き物たちばかりではない。

 夏の散歩道でふと目が合った池の中のコイや、イワナのような魚をとらえた亀のような鶏のようなクチバシをした不思議な生きもの(カッパ?)、スイカを背負ったヤドカリ、そして海の底で盆踊りに興じるタコなど。創造力の羽を思うがままにはばたかせ、生き物たちの世界を自在に描く。

 朽ちかけたヒマワリの種をむさぼるミニドラゴン、梅の木に尻尾を絡ませたタツノオトシゴ、冬虫夏草のように羽化したばかりのセミのような虫の背中から生えた草花など。現実と幻想がまじりあった作品を見ていると、心が浮き立ってくるのは、命の営みが描かれているからだろうか。

 さまざまな種類の春のスミレや、秋の木の実などを描いたコーナーや、使用している画材や作品ができるまでのメーキングを紹介するコーナーなどもあり、絵を趣味にする人には参考にもなるはず。

(日貿出版社 2420円)

【連載】発掘おもしろ図鑑

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    悠仁さまは学習院ではなぜダメだった?大学進学で疲弊する宮内庁職員「もうやめたい」と悲鳴

  3. 3

    大阪府の8割の小売店でコメ品切れ発生だが…吉村知事「備蓄米放出しろ」が腑に落ちないワケ

  4. 4

    巨人「助っ人野手の獲得下手」汚名返上できた納得の理由…今年はなぜ2人とも“当たり”?

  5. 5

    そんなに女性天皇がいやなのか…最近の雅子皇后いじめの裏にあるもの

  1. 6

    佐々木朗希にメジャースカウト「合格点」も…“投げては休む”は米国で受け入れられるのか

  2. 7

    巨人・坂本勇人は《潔くユニホーム脱ぐべき》低迷でも“1年延命”で現役続行か

  3. 8

    故・川田亜子さんトラブル判明した「謎の最期」から16年…TBS安住紳一郎アナが“あの曲”を再び

  4. 9

    “異例の成績”報道の悠仁さまに東大の「共通テスト重視」が与える影響は?

  5. 10

    やす子に始まり、やす子に終わった…一体、誰のための「24時間テレビ」なのか