「TOKYO名建築案内」米山勇監修、山内貴範著
「TOKYO名建築案内」米山勇監修、山内貴範著
東京は震災と空襲で2度も焼け野原になったが、そうした災禍をくぐりぬけ古くは室町時代からの建物が今も残っている。
国の重要文化財に指定された建物は88件あり、うち2件が国宝だ。
ひとつは明治42(1909)年に竣工された「旧東宮御所」(迎賓館赤坂離宮 国宝指定は2009年)だが、もうひとつの方をご存じだろうか。
東村山市にある正福寺の地蔵堂だそうだ。同寺は鎌倉幕府執権の北条時頼、もしくは時宗によって開かれたと伝わるが創建された年代は不明。しかし、地蔵堂は修理の際に見つかった墨書から1407(応永14)年の建立だと判明している。禅宗様の仏殿は各地に現存するが、建立年代が特定された例が少ないこと、さらに鎌倉の円覚寺舎利殿と非常によく似ており、禅宗様仏殿の完成形として高い価値が認められ、国宝に指定されたという。
この2件の国宝を含め、東京にある重要文化財建造物すべてを紹介するビジュアルガイド。
正福寺地蔵堂と同じく室町時代初期に建てられた目黒の円融寺本堂や、上野の「東照宮社殿」をはじめとする江戸時代の建物、さらに様式建築の最高傑作といわれ、昭和建築初の重要文化財に指定された「明治生命保険相互会社本社本館」(丸の内)、「代々木競技場第一体育館」(渋谷区)や「国立西洋美術館」(上野 世界文化遺産にも登録)など戦後の建物までを解説。
こうした誰もが知る建物のほかにも、18年前まで家主が住んでいたという、檜原村の標高750メートルの山間部の尾根に江戸時代に建てられた「小林家住宅」や、明治11(1878)年に竣工した現存最古の鉄橋「旧弾正橋」(江東区)など、知られざる名建造物も網羅する。
夏の間、暑くてお休みしていた街歩きの新たなお供にお勧めの一冊。
(朝日新聞出版 1760円)