「流転の中将」奥山景布子著
「流転の中将」奥山景布子著
大坂城で新年を迎えた桑名藩主・松平定敬は、慶応4(1868)年1月6日夕刻、慶喜から城を脱出するので会津藩主の兄・容保と随行するよう命じられる。前日まで薩摩軍と全面対決する姿勢を明言していた慶喜の言葉に耳を疑うが、主君に逆らうことができない。家臣に行き先を告げることもできず、慶喜に従った定敬らは大坂湾に停泊していた開陽丸に乗り込む。
4日後、国元で城を守る重役の酒井孫八郎は、定敬に随従する兄の服部半蔵から書状を受け取る。半蔵によると、公家の橋本実梁が「官軍」を名乗る薩摩や長州らを率いて桑名城を陥落させようと東進しているという。定敬の意向も分からない中、孫八郎は白旗を掲げ、恭順を示す決断をする。
行き場を失い、各地をさまよう定敬の生きざまを描いた時代長編。
(PHP研究所 1078円)