高校を舞台に描く社会の無関心や監視

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「HAPPYEND」

 もはや社会の分断は修復不能といわれるアメリカ。娯楽映画だとここまで極端な話にしないと真実味が出ないのか、とため息が出るのが来月初めに公開予定の「シビル・ウォー アメリカ最後の日」だ。

 選挙結果を否定してホワイトハウスに居座った大統領に西部諸州が反旗を翻して国家は分裂、血で血を洗う内戦に突入したという近未来の話。それも始まりから既に1年余を経た凄惨な様相をこれでもかとばかりに描くのである。

 ここまで絶望的な話を一体誰が考えたのかと思ったらオリジナルの脚本と監督は英国出身のアレックス・ガーランド。製作も米英合作だ。

 しかし、今回紹介したいのは実は別の作品。同日封切りの「HAPPYEND」である。

 世評では新しいタイプの青春映画とか、日本映画界で期待の空音央の長編劇映画デビュー作とか、さらに監督は実は坂本龍一の息子だといった話が目につくが、卒業まぎわの落ちこぼれ高校生の自分探しというストーリーは表面に過ぎない。

 プロットの陰にひそむのは日本社会の分断がどこに宿り、陰謀や監視や無関心を背景としてどう広がってゆくのかという主題。その過程を器量の小さい俗物校長に支配された高校(=小さなニッポン)に描く一種の寓話なのである。

 その意味で、まるで無関係に見える日米2作品はともに、現代の底を流れる不安と絶望への応答というべきだろう。

 近未来のディストピア物語といえば思い出されるのが大友克洋の「AKIRA」。あれこそ廃虚と化した近未来のトーキョーを舞台に、反抗的な若者たちが分断と絶望の世界を生き延びてゆく物語だった。

 折から刊行中の大友全集の第12巻が「AKIRA」(講談社 3500円)。1982年の「ヤングジャンプ」連載時の原稿を収録したらしいから、ひさしぶりにオリジナルに触れることができそうだ。 <生井英考>

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