「死神」田中慎弥著
「死神」田中慎弥著
中学2年のとき、本気で死への衝動に駆られた主人公の「私」は、「死神」に出会った。実はその兆候はそれ以前からあった。校舎のベランダ、遮断機の下りた踏切、赤信号の横断歩道、紐、コード、無防備な刃物などから喚起される想像に浸っていたからだ。
そんななか、ついに通学路の途中にあるビルに引きつけられ、猫に導かれるようにして黒ずくめの姿をした「死神」と名乗る男に出会ってしまった。直接手を下すのではなく、自殺することが決まっている者が、自殺するのを見届けるために傍らにいるという死神は、それから「私」のそばに現れては時に「まだかまだか」とささやくようになる。家では父親が母親と自分に暴力をふるい、学校では周囲から孤立していた「私」は、果たして「死神」の存在から逃げることはできるのか--。
「冷たい水の羊」で第37回新潮新人賞を受賞しデビューして以降、川端康成文学賞や芥川賞などの各賞を総なめにしている著者による最新作。死への誘惑と葛藤を抱える男を主人公に、周囲や自身に向ける鋭くナイーブな感性でとらえた危うい世界を幻想的に描いている。
(朝日新聞出版 1870円)