「争いばかりの人間たちへ ゴリラの国から」山極寿一著
「争いばかりの人間たちへ ゴリラの国から」山極寿一著
ゴリラはこれまで100年以上も、暴力的で好戦的な動物とみなされてきた。しかし、40年余りアフリカに通ってゴリラの暮らしを体験した著者は、彼らが慈愛に満ちた家族生活を送り、巧妙なルールによって暴力の発現を抑えていることを知る。
たとえばニホンザルは老いると若くて強いオスに群れから追い出されるか、あるいは控えめな態度で群れに残るしかない。しかしゴリラは、父親が離乳した子どもを育児する。子どもに頼られるようになると背中の毛が白銀色に染まり、暗い森の中で光輝くようになる。息子たちは成長して力が強くなっても、そんな父親を邪険に扱うことはない。外から強いオスがやって来ても息子たちは父親を見捨てることはないという。
また、自分より優位な者同士のケンカに介入し、どちらにも加勢せず、ケンカを鎮める。勝者をつくって終わらせるのではなく、ケンカそのものをやめさせようとするそうだ。
人間は負けないことが勝つことと同一視され、自己実現を目標とし、個人の利益ばかりを追求する世にしてしまった。だがゴリラ同様、私たち人類の祖先も平和で平等を希求する社会をつくっていたはずである。めまぐるしく価値観が変わる現代社会を、霊長類学者が「ゴリラの目」で見つめ直す。
(毎日新聞出版 1760円)