「真珠王の娘」藤本ひとみ著
「真珠王の娘」藤本ひとみ著
時は1944年。英国首相チャーチルの元を訪れた帝國真珠ロンドン支店の早川薫は、真珠の胸飾り「ハナグルマ」の修理の依頼を受ける。パリ万博に出品された逸品で、修理ができるのは制作者である東京のミスター・水野しかいない。チャーチルの心配をよそに早川は帰国を決意、水野家に向かう。
同じ頃、帝國真珠で細工師を両親に持つ水野冬美は、浜松の軍事工場へ出発する前夜、母からこう告げられた。「あなたの本当の父親は藤堂高清。あなたは真珠王の血を引く娘なのです」と。藤堂高清は帝國真珠の創業者だった。
ある日、冬美は工場敷地内で出会った火崎一族の次男火崎剣介から東京が焼け野原だと聞かされ、汽車に飛び乗る。やがて実家の跡地から「ハナグルマ」を見つけ出した冬美は、初恋の相手薫と再会。危篤の高清翁を見舞うという薫に冬美は面会を頼み込むのだが……。
本書は敗戦が濃厚な日本を舞台に、帝國真珠に人生をかけた少女を描く物語。随所にチャーチルから見た日本、日本の戦況も織り込み、人々が翻弄されていく姿を浮かび上がらせる。ことに冬美、薫、剣介の一途な思いが引き裂かれていくさまは悲しくも圧巻。権力や差別に屈することなく人生を切り開いた冬美の姿に胸を打たれる。 (講談社 2640円)