<第1回>下北沢って町は虫唾が走るんですよ
私小説作家の西村賢太氏(48)が、「東京者がたり」(講談社刊)を上梓した。ご本人いわく「48年間の半生の中で長らく住んだ懐かしい風景から、胸糞悪いアウェーまで東京を脳内散歩した随筆集です」。テレビやラジオでもお馴染み、“文壇のひねくれ者”が見た東京の姿とは――。
タイトルは、「東京物語」ではなく「東京者がたり」。一人称の色合いを濃く打ち出したところが私小説作家らしい。もとは「小説現代」で2012年2月から今夏まで連載していたエッセーだ。
「名付け親は坪内祐三さんなんです。12年暮れのある文学賞のパーティーの後、2軒目へ流れた時でしたか。雑談の中で、連載の担当編集が『東京物語』はどうかと提案してくれて。すると、坪内さんがどうせなら『東京者がたり』とひとひねり加えたら? と。僕はタイトルにはこだわるたちでして、これまでの作品は自分で決めていたんですが、とても気に入ったんですね。で、その場は肉まんをつまみに紹興酒で大盛り上がり。一から十まで他人様に考えてもらった初めてのタイトルということもあって、あとがきで触れようと思っていたら、すっかり忘れちゃった。それどころか、あとがき自体も付け忘れてしまって……」