安斎肇さん「自分の遺影を肖像画でリアルに面白く書く」

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安斎肇さん(67歳/イラストレーター・アートディレクター)

タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)でのソラミミストとしておなじみのイラストレーター・安斎肇さん(67)。実父が肖像画家なので、死ぬまでに父親のようなリアルな肖像画を描き、自画像を自分の遺影に使いたい!? 本業の絵について、朗らかな語り口で話してくれた!

  ◇  ◇  ◇

 東京の家で、僕が物心ついた頃から父親は肖像画の画家でした。体の弱い子供で、ずっとアトリエだった家にいたものだから、父と母がわら半紙やペンをくれて、「絵を描いてなさい」と。絵を描くのは好きだったけど、僕が描くのは当時はやっていたマンガばかり。

 父親はリアルな絵を描いてほしかったみたいでね。小学3年か4年の写生大会の時、僕は描いた画用紙を提出しないで持って帰っちゃって。次の日に学校に持っていこうと見たら、僕の寝てる間に父親が上からきれいに描き上げちゃってた。ドラマチックな空に生き生きとした木々! すっごいリアル画で、僕が見た風景ではまったくない(笑い)。

■少年詐欺師!?

 先生に提出したら、その日から僕を天才扱い。だから学校では絵が描きづらくなって(笑い)。画用紙を持って帰って置いといて、父親が勝手に描いてくれるのを待つようになりました。完全に少年詐欺師。フフフ。

 学生時代も僕はリアルな絵は苦手で肖像画とは距離を感じていたけど、グラフィックは好きだからデザイン学校に入りました。特にレコードジャケットが好きで、卒業後はレコード会社に勤めることができて幸運にもデザインの道に進めたけど、実際のところリアル画へのコンプレックスからかもしれません。

 フリーになってからは雑誌やテレビや、撮影の大道具作ったりTシャツ作ったり。父親からは「仕事は断るな」と言われてきたから、いろいろやりました。父親は僕の仕事を見ても感想はなかったけど、ぼーっとしてた僕が仕事してることがうれしかったみたい(笑い)。

 僕はグラフィックデザインからイラストの世界に入ったので、簡素でシンプルな絵が好きなんです。今、全集中しているのはキャラクターデザイン。アニメの「わしも」(NHK・Eテレ)はもともと宮藤官九郎くんと作った絵本が原作だから、アニメ化する時は原案を描いてからアニメのキャラクター担当さんに渡して。

 他の仕事も断らないけど、今のおもな仕事はキャラクターデザインだから、同じ「絵」の世界でも、父親の写真そっくりの肖像画とは真逆のマンガ寄りのデザイン画です。

おふくろの遺影は肖像画一筋、100歳の父親の作品

 実は一昨年、僕の奥さんが亡くなって、昨年は母も亡くなったんです。僕みたいにぼんやりした人間は女の人に育てられて生きてきたから、カミさんとオフクロを続けて亡くして、心底、ショックでした。妹と相談してオフクロの遺影を、父親が描いた肖像画にしたんです。式場で見て、グッとくるものがありました。父親がオフクロの顔を丁寧に描いた絵だから……。逆に僕がオフクロをマンガみたいなキャラ化した絵で遺影にするわけにいかないですよね(笑い)。誕生日のケーキじゃないんだから。

「オヤジみたいにちゃんとした肖像画が描けたらいいなぁ」と。父親は肖像画一筋で、今年100歳になります。僕には何が描けるだろうと考えて「自分の葬儀に自分の描いた肖像画を遺影にしたらどうだろう」と。

 僕が描いてきた絵の中で、人が手を合わせてくれるものって何もないから。逆に楽しませるものばかり描いてきたつもりだし、自分の顔もリアルに描いたことはないんです。

 だから、死ぬまでにやりたいのは自分の遺影を肖像画で描くこと。僕の顔をリアルな自画像で描いたら面白いかなぁと。それが僕がやってきた仕事を集約した絵になるかもしれない。

 今はまだ肖像画は描けないけど、30年近くは父親が肖像画を描く様子を見てきたから、なんとなくはわかる(笑い)。でも、父親と同じように描けるかはわからない。オレ流の描き方が出てくるかもしれないし。結局はマンガになったりして。

▽あんざい・はじめ 1953年、東京都出身。レコード会社のデザイン室などを経て82年からフリーで活動。企業デザインやキャラクターデザインを多数手がける。92年から「タモリ倶楽部」の“空耳アワー”コーナーに出演。映画監督作品に「変態だ」がある。 

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