コロナに負けない「鑑賞するだけでスカッとする映画」5本
厚労省の調査では、昨年4~5月の緊急事態宣言下に「何らかの不安」を感じた人は、63.9%に上る。今年も東京や大阪などでは、緊急事態宣言が延長され、コロナ禍の苦しい生活が続いているが、外で発散するわけにもいくまい。そこで、逆境をはね返す映画を見て、胸をスカッとさせてはどうか。映画通イラストレーターのクロキタダユキ氏に、おすすめを教えてもらった。
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■「第十七捕虜収容所」(1953年、米国)…寡黙な男が見せる冷静さ
仕事が終わったら、宅配でウマいものを頼んで好きな酒を飲む。晩酌にストレス発散を求める人は少なくないでしょう。ナチスの収容所を舞台にした「第十七捕虜収容所」の主人公の米兵士セフトンも、そんなタイプ。劣悪な環境ながら、ドイツ兵を買収、酒やたばこ、ばくちなど娯楽を優先します。仲間から浮くのも当然です。
そんな折、ある仲間の脱走を機に事態は動きます。彼が射殺された上、身内の極秘情報が相手に漏れていたことが発覚。ドイツ兵とやりとりがあったことから、仲間にスパイ容疑をかけられ、暴行を受けるのです。
仲間に何を言っても、信じてもらえない。それが続き、「オレが何を言ってもダメだ」と悟り、真のスパイ捜しを決意するのです。
本作でアカデミー主演男優賞に輝くウィリアム・ホールデンは、一転して目的達成に向け、寡黙な男になりきります。ドイツ兵の動きを人知れず観察するんですね。暗闇で葉巻をくゆらすシーンは男ならグッとくること間違いなし。
「困難な状況でも、冷静さを忘れずダンディーに」 これが本作のヒントです。ハリウッドを代表する職人監督ビリー・ワイルダー、約70年前の白黒作品でも、まったく色あせていません。
■「ミッドナイト・エクスプレス」(1978年、米国)…アラン・パーカーが描いた絶望感と極限状態
収容所の次は、刑務所です。
コロナで鬱屈した状況は、特異な閉鎖空間に共通します。そうこじつけつつ、今を生きるヒントになると思うのが、「ミッドナイト・エクスプレス」です。
舞台は1970年代、ちょいブラピ似のブラッド・デービス演じる若者は、恋人とトルコ旅行中に出来心でハシシュを持ち出そうとして失敗。彼女の目の前で警察に取り押さえられると、言葉が通じない取調室では全裸にされ、刑務所にぶち込まれてしまいます。
米国大使館の職員らからいろいろな情報を得ると、若者ゆえ「早く出られるだろう」とのんきなものです。しかし、当時の米国と中東の関係は最悪で、刑期は延長され、次第に精神を病んでいきます。面会に来た彼女に「オッパイ見せて」とねだり、何とオナニーするんですから、イカれてます。
でも、どん底で気付くのです。もう誰も信用しないと。腹を固めた男は、ミッドナイト・エクスプレス(脱走)を決行します――。
「プラトーン」で有名なオリバー・ストーンの脚本は実話がベースで、鬼才アラン・パーカーが映像化。
絶望感にむせるエキゾチックな映像は、2トンもの牛の血を天井から降らせた演出で物議を醸した「エンゼル・ハート」のアランならでは。
「苦しい時こそ心を強く持ち、自分を信じることがいかに大切か」を思い知らされます。
■「ショーシャンクの空に」(1994年、米国)…中高年を魅了する忠臣蔵との共通点
同じく刑務所を舞台にした「ショーシャンクの空に」は、中高年男性が選ぶ好きな映画のナンバーワンの一作です。本作の魅力を支える大きな要因は、主人公の銀行マン・アンディ(ティム・ロビンス)のミステリアスさでしょう。
妻と愛人殺しの濡れ衣で終身刑を言い渡されますが、培ったキャリアで所長の税務アドバイスや資金の運用などを手伝ったほか、囚人の環境改善で図書館の拡充を要求。
さらに放送室をジャックして「フィガロの結婚」を流すなど、知恵者なのかお祭り男なのか分からず、知らず知らずのうちに引き込まれてしまいます。
で、名優モーガン・フリーマン演じる仲間に「希望はいいものだ」とこぼすのに、自分の“希望”は決して明かしません。アンディ流の困難に打ち勝つ戦術は、「大事なことは決して人に漏らしてはいけない」。「無言実行」に尽きます。
「忠臣蔵」の大石内蔵助にも通じるアンディの生きざま。オヤジの心をガッチリ掴むのもうなずけます。
「エレファント・マン」(1980年、英・米)
「医療関係者に感謝を」といううねりが世界中で湧き起こる一方、コロナ禍の不安心理は弱い者イジメを助長します。殺伐とした状況に嫌気が差したら、名作「エレファント・マン」はいかがでしょうか。
■奇形人間の感謝の気持ち
奇形人間ジョン・メリックが見せ物小屋の怪物として生活していたところ、外科医トリーブスが小屋の主に掛け合って引き取ります。
ジョンは卑屈になって不思議ない設定なのに、今があるから優秀な医師と知り合うことができたと母に産んでくれたことを感謝。
ジョンと病院長とのやりとりでは、聖書の一節を披露して、聖書が心の支えになったことが伝わってきます。
白黒映像で特異な状況ながら、グイグイと引き込む演出は見事です。
奇形人間を英国のジョン・ハートが、外科医は「羊たちの沈黙」でおなじみのアンソニー・ホプキンスが演じています。
「最悪な時でも、感謝の気持ちを大切に」というメッセージがしっかり伝わるのは、2人の好演があればこそです。
「エリン・ブロコビッチ」(2000年、米国)
コロナのダメージは、会社を揺さぶり、雇用を不安定にしています。米国の環境活動家エリン・ブロコビッチは、もともと無学で無職のシングルマザー。その彼女が車を運転中に追突され、勝てるはずの裁判に負けたことから、その後の未来を大きく変えることになります。
敗訴の代償として弁護士事務所に働かせてくれと直訴。そろそろ引退を考えていたメタボの老弁護士は、アルバイトで渋々受け入れることに。それで事務所に出入りするようになったエリンは、ある公害の情報提供を目にすることになります。
■ピンチをチャンスに
アカデミー主演女優賞を手にしたジュリア・ロバーツ演じる主人公は、巨大企業を相手に訴訟を挑む。弁護士の所長にとっては、負ければ破産。そんな苦しい状況でも、ハンバーガー片手に文句を言いつつも、部下のエリンをしっかりと後押しするのです。
日本円で350億円とされる当時の史上最高の和解金を手にしたサクセスストーリーは、彼女の名前を冠した映画になりました。でも、その成功を可能にしたのは、英国俳優アルバート・フィニー演じる弁護士がいてこそでしょう。
「上司は、苦しい立場でも、部下を信頼し、支えきる」
今求められるのは、そんな上司かもしれません。自分のミスを秘書や官僚のせいにする日本の政治家とは大違いです。
(文・イラスト=クロキタダユキ)