銀座の高級クラブ「姫」のマダム・山口洋子の“多面多才”
“銀座の夜の女”の代名詞ともいえる山口洋子だが、それ以外に、彼女にはいくつもの顔があった。「噂の女」(内山田洋とクール・ファイブ)、「うそ」(中条きよし)、「ブランデーグラス」(石原裕次郎)、「逢えるかもしれない」(郷ひろみ)、映画「ヤマトよ永遠に」挿入歌「愛の生命」(岩崎宏美)、「アメリカ橋」(山川豊)など多くのヒット曲を世に送り出した人気作詞家。さらに、80年に入ると「姫」の常連客でもあった近藤啓太郎に師事し、小説を書き始めてもいる。
■史上初の「直木賞」と「日本レコード大賞作詞」の2冠
「さすがに洋子ママも作詞をするみたいにはいかないよ」
――口さがない評論家は辛辣にはやした。常連客ですらそう思った。ただでさえ文士の客の多い店である。しかし、大方の予想は覆される。81年に「半ダースもの情事」でデビューすると、「貢ぐ女」で初めて直木賞候補。「弥次郎兵衛」で2度目の候補。「プライベート・ライブ」で吉川英治文学新人賞を受賞。そして85年、三度目の正直で「演歌の虫/老梅」で第93回直木賞を受賞する。史上初めて「直木賞」と「日本レコード大賞作詞」という2冠を成し遂げた。この栄誉は2021年現在、山口洋子、伊集院静、なかにし礼の3人しか手にしていない。