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伊藤さとり映画パーソナリティー

映画コメンテーターとして映画舞台挨拶のMCやTVやラジオで映画紹介を始め、映画レビューを執筆。その他、TSUTAYA映画DJを25年にわたり務める。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。レギュラーは「伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談&監督対談番組(Youtube)他、東映チャンネル、ぴあ、スクリーン、シネマスクエア、otocotoなど。心理カウンセラーの資格から本を出版したり、心理テストをパンフレットや雑誌に掲載。映画賞審査員も。 →公式HP

ジョニー・デップ主演「MINAMATA」に続き「ONODA」も 外国人が描く日本の歴史から見えるものとは?

公開日: 更新日:

 今、一本の映画が話題になっています。主演俳優はハリウッドスター、ジョニー・デップ。彼がプロデューサーとしても参加しているその映画とは、日本の四大公害のひとつである水俣病を撮影し世界に伝えた写真家ユージン・スミスの物語『MINAMATA―ミナマタ―』です。キャストには、真田広之、美波、國村隼加瀬亮浅野忠信ほか多くの日本人が参加し、音楽は産業公害や環境問題にも取り組んでいる坂本龍一が担当、監督をアメリカ人であるアンドリュー・レヴィタスが務めています。

■水俣病との闘いを通じて綴られる、普遍的な熱きメッセージ

 物語は1971年、ニューヨークで隠遁生活を送る写真家・ユージン・スミスの元にアイリーンと名乗る日本人女性がやって来て、熊本県水俣市のチッソ工場が海に垂れ流す有害物質で苦しむ人々の姿を撮って欲しいと頼むところから始まります。やがてユージンが目にした光景は、公害で寝たきりとなった人々の姿はもちろん、抗議する家族たちを力でねじ伏せようとする工場側の容赦ない態度であり、その圧力はユージンの身にも降りかかってくるのです。

 ハンディカメラを多用し、抗議運動や対立シーンでの彼らの激しい怒りや苦しみをドラマティックに捉え、常に感情のように動いている画に観客は惹き付けられます。

自治体によって対応が異なる背景は…

 物語の舞台となる水俣の撮影は日本ではなく、映画の撮影許可が取りやすいセルビア、モンテネグロにセットを組み、完成を迎えました。しかしその後、製作サイドが水俣市でのプレミア先行上映の後援を市に打診したものの水俣市は拒否、理由は「内容や製作意図が不明のため」とのことでした。

 一方、熊本県側は後援を承諾し、映画が多くの人に広まることに賛同しています。これだけ意見が食い違ってしまうことを考えると、日本ではセンシティブなテーマなので映画化しづらいということなのでしょうか。しかし、本作は決して日本だけの問題を映画化しただけの作品はなく、エンドロールに映画の意図することが散りばめられています。そこでは世界各国の産業公害が写真とテロップで紹介され、世界の産業公害に目を向け、権力に屈せずに声を上げて欲しいという製作陣の熱き思いが綴られているのです。

もう一つの海外が見た日本の物語『ONODA 一万夜を越えて』

 これと同じように、海外の監督が日本人兵士の半生を映し出した『ONODA 一万夜を越えて』という映画が、10月8日に公開されます。当時、大々的なニュースにもなった人物であり、第二次世界大戦でフィリピン・ルバング島に派遣され、終戦を知らずに30年もの間ジャングルで兵士として過ごした小野田寛郎の物語です。

 本作の監督と脚本を務めるのはフランス人のアルチュール・アラリであり、日本人キャストはほぼオーディションで決定。青年期の小野田を遠藤雄弥、成年期を津田寛治、小野田と出会う若者に仲野太賀、小野田に大きな影響を与えた軍人にイッセー尾形ほか、個性的な俳優陣が顔を揃えています。

 撮影はカンボジアで4カ月間に渡り、フランス、日本、ドイツ、ベルギー、イタリアという国際共同製作映画でありながら登場人物もほぼ日本人、台詞もほぼ日本語です。主に、小野田と部隊がどうやって密林の中で生きて来たのか、小野田は何故、終戦を迎えたことを告げられても信じなかったのかを、戦争の呪縛に囚われた小野田の深層心理を軸に描いていきます。

 興味深いのは外国人監督による社会的に囚われない視点で生まれた劇映画は、史実を正確にというよりも戦争が人をコントロールし、判断力も奪ってしまうという全世界共通のメッセージを持っていたことです。

海外の眼差しを通して、負の歴史から学ぶということ

 そう、『MINAMATA』も『ONODA』も“産業公害”と“戦争の犠牲者”という忘れてはならない日本の黒歴史ですが、海外の製作サイドから見ると、今の若者たちが社会や政治に興味を持ち、声を上げることで未来は変わると伝えるのに適した世界的視野を持つテーマでもあったのです。

 実話であろうとも史実に囚われすぎると完成への道のりは遠のいてしまう。これらのテーマは自国の出来事として繊細になってしまう日本人ではなく、客観的視点で見られる海外の映画人だからこそ映画化出来たのかもしれません。

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