伊藤英明が事務所を移籍してまで貫いた「津川雅彦さんへの敬意」
この春、俳優の伊藤英明(46)が20年以上所属していた芸能プロを退社し、新たに「グランパパプロダクション」に移籍したことを公表した。
この3、4年、俳優の独立や移籍が続いている流れのひとつとみる向きもあるようだが、伊藤の場合は、ある大物俳優に対する敬意と思いがあっての移籍のようだ。
伊藤が移籍したグランパパは、俳優の故・津川雅彦さんが設立した事務所で、現在は岩下志麻、松原智恵子といったビッグネームから、あらゆるドラマの場面で登場する笹野高史、秋野太作、高橋由美子といったベテラン勢も所属している。伊藤は2015年に津川さんとドラマで共演し、親交を深めてきた。
伊藤は津川さんについて「己の老いと闘いながら居心地悪そうに切磋琢磨する姿、本当の意味での『努力』などを目の当たりにし、ある種嫉妬の気持ちすら感じておりました」という。そんな津川さんが残した空気があるグランパパで活動したい思いが勝った。
長らく主役・準主役として活躍してきた伊藤だが、自分でも「少しおっさんになった俳優」と表現する中、晩年の津川さんが悪役や難しい役どころ、そしてほんのちょっと顔を出すだけのチョイ役もいとわず、それでいて強烈な印象を残す姿に次の自分の姿を見いだしているのではなかろうか。
津川さんの経営するおもちゃ屋さんで…
津川さんは取材で顔を合わせると、常ににこやかに丁寧に説明してくれて、イヤな顔をしない人だった。僕が取材した頃は、すでにベテランの俳優で、いろいろな経験をお持ちだったからだろうが、度量の大きさを感じさせた。僕に近い人物がその昔、津川さんの経営する「グランパパ」というおもちゃ屋さんに買い物に行ったら、店主として津川さんがいらっしゃったそうだ。
そこへ、故・夏目雅子さんが遊びに来たので、「夏目さんにサインをお願いしたい」と津川さんに頼んだら、「雅子ちゃん、サインしてやってよ」と声をかけてくれたそうだ。もちろん、夏目さんも気軽に応じてくれたのだが、その時、津川さんが「オレもサインしてあげようか……」と聞いてきたという。「いや~、津川さんのはいらない」と断ったのだが、続けざまに「ここに来たら会えるでしょ」と返事すると大笑いしていたそうだ。
この一件でもわかる通り気さくな人だった。そんな魅力のある人だからこそ、伊藤は今後の目標とする俳優に津川さんを選び、事務所まで移ったということだろう。
このところ話題のWOWOWのドラマ「TOKYO VICE」(マイケル・マン監督ほか)にも出演している伊藤が、どんな変化を見せるのか楽しみでならない。