宮藤官九郎は高田文夫に憧れ…「クドカンワールド」のルーツはお笑い番組
(5)宮藤官九郎
ともにテレビのなかの「言葉のプロ」という点で、放送作家と脚本家は親戚のようなものだ。だから、放送作家から脚本家に転身するケースや、両方を兼ねるケースも珍しくない。萩本欽一の弟子として放送作家になり、後に刑事ドラマ「踊る大捜査線」などのヒット作で脚本家として有名になった君塚良一らが良い例である。そして、「クドカン」こと宮藤官九郎もそんなひとりだ。
宮藤官九郎は1970年、宮城県に生まれた。インターネットなどまだなかった当時、特に地方に住む若者にとっての娯楽の中心は、なんといってもテレビとラジオだった。そして宮藤少年がちょうど多感な時期に差し掛かった頃に巻き起こったのが、1980年代初頭の漫才ブームだった。
その圧倒的な影響でビートたけしが好きになり、将来はたけし軍団に入ろうとまで考えていた宮藤官九郎は、やがて「ビートたけしのオールナイトニッポン」を聴き、そこでたけしの相方的存在だった放送作家・高田文夫に憧れるようになる。その思いは強く、高校時代には、地元のテレビ局で高田が司会をしていた番組のお笑いオーディションに自作のコントで挑戦したこともあったほどだ。
高田文夫と同じ道へと日大芸術学部に
大学も、高田文夫と同じ道に進みたいという理由で同じ日大芸術学部に。だがその頃、劇作家で俳優でもある松尾スズキと出会い、彼が主宰する劇団大人計画へ。そこで役者として舞台に立つと同時に、脚本も書くようになった。
すると才能が花開き、舞台やドラマ、映画の脚本を幅広く手掛けるようになる。なかでも、長瀬智也が主演したTBS系「池袋ウエストゲートパーク」は、出世作である。池袋にたむろする不良の若者の群像劇だが、原作にはないギャグや小ネタ、コミカルな要素を宮藤官九郎は大胆に盛り込んで、評判になった。
それ以降も、長瀬智也演じる元ヤクザが落語家になる「タイガー&ドラゴン」、アイドルの世界を描いた東北地方が舞台の朝ドラ「あまちゃん」、オリンピックをテーマに現代史に挑んだ異色の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」など、名作、話題作を次々世に送り出しているのはご存じの通りだ。
一方で、放送作家になる夢もちゃんとかなえた。脚本執筆のかたわら、フジテレビ系「笑う犬」シリーズなどに参加し、コント作家として長年バラエティー番組を支えた。
すでに大御所ともいえるキャリアの宮藤官九郎だが、どんなシリアスなものにも笑いやユーモアを交えて描く「クドカンワールド」は健在だ。そのルーツは、やはり、高田文夫のような放送作家に憧れ、テレビとお笑いに夢中になった少年時代にあるに違いない。 (おわり)
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