著者のコラム一覧
太田省一社会学者

1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本、お笑い、アイドルなど、メディアと社会・文化の関係をテーマに執筆活動を展開。「紅白歌合戦と日本人」(筑摩書房)、「芸人最強社会ニッポン」(朝日新書)、「21世紀 テレ東番組 ベスト100」(星海社新書)など著書多数。最新刊は「放送作家ほぼ全史」(星海社新書)。

宮藤官九郎は高田文夫に憧れ…「クドカンワールド」のルーツはお笑い番組

公開日: 更新日:

(5)宮藤官九郎

 ともにテレビのなかの「言葉のプロ」という点で、放送作家と脚本家は親戚のようなものだ。だから、放送作家から脚本家に転身するケースや、両方を兼ねるケースも珍しくない。萩本欽一の弟子として放送作家になり、後に刑事ドラマ「踊る大捜査線」などのヒット作で脚本家として有名になった君塚良一らが良い例である。そして、「クドカン」こと宮藤官九郎もそんなひとりだ。

 宮藤官九郎は1970年、宮城県に生まれた。インターネットなどまだなかった当時、特に地方に住む若者にとっての娯楽の中心は、なんといってもテレビとラジオだった。そして宮藤少年がちょうど多感な時期に差し掛かった頃に巻き起こったのが、1980年代初頭の漫才ブームだった。

 その圧倒的な影響でビートたけしが好きになり、将来はたけし軍団に入ろうとまで考えていた宮藤官九郎は、やがて「ビートたけしのオールナイトニッポン」を聴き、そこでたけしの相方的存在だった放送作家・高田文夫に憧れるようになる。その思いは強く、高校時代には、地元のテレビ局で高田が司会をしていた番組のお笑いオーディションに自作のコントで挑戦したこともあったほどだ。

高田文夫と同じ道へと日大芸術学部に

 大学も、高田文夫と同じ道に進みたいという理由で同じ日大芸術学部に。だがその頃、劇作家で俳優でもある松尾スズキと出会い、彼が主宰する劇団大人計画へ。そこで役者として舞台に立つと同時に、脚本も書くようになった。

 すると才能が花開き、舞台やドラマ、映画の脚本を幅広く手掛けるようになる。なかでも、長瀬智也が主演したTBS系「池袋ウエストゲートパーク」は、出世作である。池袋にたむろする不良の若者の群像劇だが、原作にはないギャグや小ネタ、コミカルな要素を宮藤官九郎は大胆に盛り込んで、評判になった。

 それ以降も、長瀬智也演じる元ヤクザが落語家になる「タイガー&ドラゴン」、アイドルの世界を描いた東北地方が舞台の朝ドラ「あまちゃん」、オリンピックをテーマに現代史に挑んだ異色の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」など、名作、話題作を次々世に送り出しているのはご存じの通りだ。

 一方で、放送作家になる夢もちゃんとかなえた。脚本執筆のかたわら、フジテレビ系「笑う犬」シリーズなどに参加し、コント作家として長年バラエティー番組を支えた。

 すでに大御所ともいえるキャリアの宮藤官九郎だが、どんなシリアスなものにも笑いやユーモアを交えて描く「クドカンワールド」は健在だ。そのルーツは、やはり、高田文夫のような放送作家に憧れ、テレビとお笑いに夢中になった少年時代にあるに違いない。 (おわり)

■好評発売中の「放送作家ほぼ全史」(星海社新書=太田省一著)ではさらに放送作家の世界を分析。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動