計9時間!菊之助の新作歌舞伎「ファイナルファンタジーX」はあまりに長い
ゲーム「ファイナルファンタジーX」が歌舞伎になった。しかも、観客席が360度回転する劇場で。
「企画・構成」、そして主演の尾上菊之助(45)は、これまでも、シェイクスピアの『十二夜』やインド神話、そして『風の谷のナウシカ』などを歌舞伎にしてきた。その延長にある企画だ。
私自身は、歌舞伎はほとんどの公演を見に行くが、ゲームはやらない。「ファイナルファンタジー」も名前は知っているが、やったことはないし、詳しいことは何も知らない。
だから、「あのファイナルファンタジーが歌舞伎になるのか、それは楽しみだ」とはまったく思わなかった。「菊之助がどんなことをやろうとしているのか」という興味と、360度回転する劇場、「IHIステージアラウンド東京」(東京・江東区)がどんなところなのか、そこに興味があって見に行った。
■9時間もかかる、体感型演劇
最大の難点は、前編・後編で合わせて、9時間もかかることだ(12時に始まり、21時に終わった)もちろん、休憩はある。とくに前編と後編の間は90分の間があるし、別の日に行ってもいい。ただ、通し券で買うほうが安い。
いまは、歌舞伎を含めてたいがいの演劇が映像に収録され、配信されたり、DVDなどで販売されるが、この『ファイナルファンタジーX』は、劇場で見ないと面白さは半減するだろう。体感型の演劇なのだ。
劇場は中心に客席があり、それを360度囲んで、ステージがある。歌舞伎座などは舞台の中央が回転して、舞台転換がスムーズにできるようになっているが、その逆だ。360度のすべてが、いつも見えているわけではなく、120度くらいの空間で演じられる。
外縁部のステージはいくつかに区切られていて、そこにそれぞれのセットが組まれている。俳優はそのステージを移動していく。それに合わせて、客席が回転するので、常に観客の正面で演じられることになる。予想したよりも、客席が「動く」感じはしなかった。
この機構をうまく使った演出で、これはその場で体験しないと味わえない。背景は、歌舞伎だと書割だが、ゲームの映像が大画面で映っていて、その前で俳優たちは演じている。映像の解像度は粗い。もっと鮮明にできないものかと思ったが、そうしたら、俳優たちが埋没してしまうのかもしれない。粗い映像の前だから、俳優が浮き立っているのだろう。