計9時間!菊之助の新作歌舞伎「ファイナルファンタジーX」はあまりに長い
見せ場の連続で退屈はしないが、何も残らない
歌舞伎であろうがなかろうが面白ければいい。『ファイナルファンタジーX』は見ている間は、退屈はしない。場面転換は早いし、次から次に見せ場が来るし、大音量の音楽に包まれているので思考もマヒしてくる。
しかし、見終わって、何も残らない。
はっきり言って、半分の時間でいいと思った。大長編の小説でも、映画にするときは3時間以内におさめるのが脚色ではないのか。好きな人は、この世界に一秒でも長く浸っていたいから、何時間でもかまわないのかもしれないが、この世界を知らない人に見てもらおうと考えるなら、あまりにも長い。
ただ、退屈はしない。途中で帰ろうとも思わなかったし、眠くもならない。その意味では、よくできている。それは俳優たちの力も大きい。
座組は、尾上菊五郎の一門が中心で、菊五郎も声だけだがラスボス的な役で出て、さすがの存在感だった。他に、尾上菊之助、尾上松也(38)、坂東彦三郎(46)、中村梅枝(35)、中村萬太郎(33)らが出ている。亡くなった中村吉右衛門の一門からも、中村歌六(72)と米吉(30)の親子が加わる。米吉は物語の中心にいる少女の役だ。他に、中村錦之助(63)、坂東彌十郎(66)、中村橋之助(27)、上村吉太朗(21)、中村芝のぶ(55)らが出ている。
この手のヒーローものでは、主人公よりも悪役のほうが魅力的で、俳優としてはやっていて楽しくやりがいのあるものだが、そのおいしい悪役は尾上松也が射止めた。菊五郎劇団にあっては脇役の子というポジションだった松也が、いまや堂々と菊之助と舞台の上で対峙しているのを見るのは感慨深い。